第9章 忘れられた子どもたち
「本当になんでもないって」
なら何で狼狽えるんだ。
あたしはぼーさんを睨みながらも詰め寄るが、彼はそっぽを向いてしまうだけ。
(なんで誤魔化すの!?)
苛立ちを覚えながら安原さんとジョンを見ると、彼らもそっぽを向いてしまう。
するとあたしと同じように苛立ちを覚えていたのか、麻衣がテーブルを叩いた。
「──もーっ!どうして皆そう秘密を持ちたがるのっ!」
皆、秘密にしたがる。
ナルも真砂子も何も言わない、それに加えてぼーさんたちまで。
言ってくれてもいいじゃないか。
言ってくれていたら、あたしはナルが旅行に戻ってくる度に『楽しかった?』なんて無神経な事言わなかった。
(でも、これはただの言い訳だ……!)
悔しくて目頭が熱くなってくる。
泣きそうになるのを必死に堪えていた時だった。
「──リン!」
ぼーさんが名前を呼ぶ。
デッキの向こう側でリンさんが歩いていて、何かを捜しているような様子だ。
「ナルを見ませんでしたか?」
「……あ、あたしと結衣見た。水辺にいたよ」
「どうも」
「ナルの兄貴がここに沈んでるんだって?」
ぼーさんの問に、リンさんが静かに目を見張った。
「……それを誰から?」
「結衣と麻衣がナルから聞いたってよ」
リンさんの瞳があたしと麻衣を捉える。
そして静かに頷いた。
「……そうです」
「……お悔やみを言っとくよ。なんで亡くなったのか聞いてもいいかね?」
ぼーさんの言葉に、リンさんは少し考えていた。
言うべきなのかどうなのか……そう思っているのだろう。
だけど暫くしてリンさんは口を開いた。
「……事故とだと聞いています」
「事故って?」
「詳しいことはわたしにも……ナルは言いたがらないので。──ただ、殺された、と」
思わず口を手で塞ぐ。
そうしないと悲鳴に近い声が出てしまいそうだったから。
「殺された……?犯人は」
「いえ……」
「ナルが自分で殺したんじゃないでしょうねぇ?でなきゃなんでここに死体があるなんてわかるわけ?」
「綾子!」
「なんて事言うの!」
綾子の失礼な物言いに、リンさんが彼女を睨め付ける。
「まさか。ナルは知っているんです。それだけです」