第10章 神と、仔等(DMC4原作沿い)
彼女の唇が、苦しげに震えた。
「……助けて、バージル……アタシ、死にたくない」
涙が、頬を伝う。
「ネロの人生を、もっと見守ってたい……」
その瞬間――
「ビアンカ!!」
バージルの鋭い声が響いた。
「……!」
彼女は、怯えたように顔を上げ、バージルを見る。
彼の浅縹色の瞳が、まっすぐに彼女を捉えていた。
「死なせはしない」
「……っ」
それは、冷酷な男が発するには、あまりにも不器用で、真っ直ぐな言葉だった。
「少しでも、自分の命を伸ばすことを考えろ」
それだけで、涙が溢れた。
「うん……うん……」
嗚咽を堪えながら、ビアンカは弱々しく頷いた。
バージルは、その姿を見ながら――
再び、幻影の剣を召喚する。
(やるべきことは、一つだ)
リゴレットを、仕留める。
しかし、ビアンカを死なせずに。
――必ず、救い出す。
バージルは、鋭く息を吐いた。
「……覚悟しろ、リゴレット」
閻魔刀を持たぬ魔剣士が、その場に降臨する悪魔へと、再び刃を向けた。
リゴレットの巨体が、バージルの刃に貫かれる。
咆哮が空間を震わせ、魔力の奔流が渦を巻いた。
だがその抵抗も、もう長くは続かなかった。
「終わりだ」
バージルの冷たい声が響くと同時に、リゴレットの魔体が霧散し、消滅する。
静寂。
漂っていた瘴気が、少しずつ薄れていく。
戦いは終わった。
しかしバージルは、すぐに背後を振り返る。
磔にされていたビアンカの身体が、拘束が消えたことで、糸が切れたように床へと倒れ込んだ。
乾ききった床に、血が広がる。