攫ってほしいと頼んでも ♔setters♔ ‐HQ‐
第2章 お転婆アリスを追いかけた迷いネコ
五月になって少しずつ日差しが熱を増してくる
いまは丁度いいくらいだけどそのうち暑くなるんだろうな
『…もしもし清水先輩!
昼用の弁当人数分確保しました、このまま学校まで持っていきますね』
「任せちゃってごめんね、 くるみちゃんありがとう」
スマホの電源を切ってズボンのポケットに仕舞う
今日は合宿二日目で、注文していた弁当屋が私の家から近いということからおつかいを頼まれている
自分から引き受けたとは言え部員全員分の弁当は重い!
『…魔法、使えたりしないかなー…あっ』
目の前を猫が横切る
その靭やかで軽い体を目で追う
白い体に茶色の斑点がまばらに彩られていて
猫は彼の前で止まった
目線は彼の顔を見ようと自然と上がる
猫のような彼もまた私を見てる
『………』
「………」
『あ、えっと…初めまして!』
異様な空気が流れてて打ち切ろうとつい大きな声が出る。大きな声がいけなかったのか、その人はビックリしたように身震いしてより警戒してるように見えた
…ほんとうに"猫"みたい
『あ、驚かせてごめんね、何してるの?』
見たことないジャージ…
この辺の学校じゃないのかな?
「あ…え…っと、迷子…」
『迷子…?』
小さく顔を上下してみせる彼
今のはYESって事だよね
『どこまで行きたいの?案内するけど!』
「…時間までにつけばいいし
多分向こうもおれを探してると思うから」
「…それに歩き回ると疲れるし」
ボソッと最後に言った言葉が聞こえなくて歩み寄ろうとしたとき
足元にいた猫が、彼のスポーツバックから飛び出ていたタオルを口に加えて走り出していく
「…うわ」
『た、タオル持っていかれちゃったよ!』
彼は至って冷静で猫を追うこともしなければ、空いていたバックのチャックを締めていた
私はその場でジタバタしながら猫の去っていた方角を指差す
『追いかけなくていいの?!見失っちゃうよ??』
「いいよ、別に
多分もう手遅れだし、あれ以外にも持ってきてるし」
で、でも〜〜〜
本人がいいって言ってるからいいのかもしれないけど
両手にぶら下げていたお弁当の入ったビニール袋を下ろす