第1章 【僕にできること】
「……ん。ありがとうな……」
言われるがままにそっとその広い背中にしがみつくと、
服越しにも伝わる力強い体温と、
男らしいαの匂いに包まれ、苦しくなる。
愛しい背中に顔を押し付け、溢れそうになる恋情を
必死に押し殺しながら、俺はただ静かに目を閉じた。
*
俺の背中にぐったりと身体を預け、
苦しそうに息を荒げる廉……。
一刻も早く楽にしてやりたくて、
俺はグッと足に力を込めて立ち上がった。
―――ヒートの周期はまだ先のはずだった。
けれど、胸騒ぎを信じて廉を連れ帰ってきて
正解だったのだと、胸をなで下ろす。
とはいえ、甘いフェロモンを撒き散らす今の
廉を抱えたままでは、共用のエレベーター
なんて到底使えないし、ヒート中のΩと、
そのパートナーだけが専用キーで呼び出せる
非常用エレベーターに
辿り着くまでは一瞬たりとも油断はできない。
背中でぐったりと重みを増していく廉を
しっかりと腕で固定し直し、先を急いだ。
廉とこんな関係になってから、
俺は廉のためにこの部屋へ引っ越した。
ヒート中のΩと、そのパートナーだけが専用キーで
呼び出せる非常用エレベーターが設置されている、
セキュリティの厳重なマンションを探し尽くして。
エレベーターという密室で、
熱に浮かされた廉と他のαが鉢合わせるなんて
想像だけでも頭がおかしくなりそうだった。
万が一にもそんな事故が起きたら、相手を潰す
だけじゃ済まないし、何より廉を守り切れなかった
自分を一生許せなくなる。と、思ったから。
「……よし、行くぞ」
背中でぐったりと重みを増していく廉を
逃がさないようしっかりと腕で固定し、
専用エレベーターのボタンを押し込んだ。