第1章 【僕にできること】
「……んっ、ぁ」
背中に負われたまま、廉が俺の首筋に額を押し付け、
熱い吐息をもらす。
扉が閉まり、上昇を始めたエレベーターの中は、溺れそうなくらい濃密な廉のフェロモンで満たされていた。
αとしての本能が、奥底から暴れ出しそうになる。
正直、理性を保って我慢するのがめちゃくちゃしんどい。
つーかマジで、この状況で欲望を押し殺してる俺を
褒めてほしいまである!!
えーと……こういうときは、九九でもそらんじたらいいんだっけ?
そんなくだらないことを考えているうちに、エレベーターは目的地である俺の家のフロアへと到着した。
静まり返った廊下を歩きながら、背中でぐったり
と重みを増していく廉に優しく声をかける。
「もうちょいで部屋に着くから。
あと少しだけ、我慢できそう?」
「……ん、ありがとう……っ」
―――首筋に触れる息が熱い。
ようやく辿り着いた玄関で鍵を開け、そっと廉を
背中から下ろし、膝をつかせて廉の靴を脱がせて
やると、安全な場所に着いて気が緩んだのか、
ぶわっと濃密なフェロモンが溢れ出した。
あからさまに俺を誘うようなその匂いに、
脳がクラつく。
ヤバい、早く部屋のベッドまで運ばないと――…
自分も早く靴を脱ごうと上がり框に腰を掛けた、
その時。熱に浮かされた瞳の廉が、細い指先で
俺のシャツの裾をくいっとつまんだ。
「……ん? どうした?」努めて平気を装って
声をかけつつも、俺の手元は焦りまくっていた。
もたつく俺を待ちきれなかったのか、
廉がゆらりと身体を起こし、そして、
そのまま後ろから俺の首元に両腕を回した。
熱い吐息とともに、
耳元へ甘く痺れるような声が落ちる。
「ここで、シよ。……あかん?」
……その一言で、
俺の中で何かがぷつりと音を立てて切れた。