第1章 【僕にできること】
苛立つような、余裕のない声で叫ぶと、
紫耀は袋の端を歯で引きちぎり、袋の隙間から
必死な手つきでゴムを引っ張り出した。
粗い吐息を漏らしながら準備をする紫耀の横顔を
熱で霞む視界の隅でそっと、盗み見る。
俺のせいで余裕を失っている紫耀が、
最高に、艶っぽくて、
涙が滲んでくるくらい、好きやって……
紫耀には絶対に、言うてやらんけど
―――好き。
俺たちの関係は……
グループとしての活動を円滑に進めるため。
普段はβだと偽って生きる俺の綻びを隠し、
膨らむ熱を冷ましてくれるため。
何度、身体を重ねようとも、
それ以上でも、それ以下でもなくて。
メンバーの中で唯一のαである紫耀が、
優しさでこの身を抱いてくれている……
ただ、それだけの秘密の関係なんやから。
「好き」なんて甘い言葉、
紫耀に伝えたところで困らせるだけやし。
本能だけで繋がり合うこの部屋で、
俺のこの気持ちなんて、邪魔なだけや。
肌と肌が触れ合うたび、
紫耀の匂いに包まれるたびに、
胸が締め付けられるほど愛おしいとか。
たった一枚の冷たい隔たりすらもどかしくて、
本当はそれさえもなくして、
紫耀の熱そのものに
躰の奥深くまで満たされたいなんて。
そんな願いを抱いてしまうのは、
きっと、ヒートの熱が見せる一瞬の幻。
ただの、気の所為なんやから──……。
***
紫耀と曖昧で歪な関係のまま、
気づけば何年もの月日が流れていた。
かつては軽かったはずのヒートの症状は容赦なく重く、
しんどくなっていき、元々エグかったらしい
Ω特有のフェロモンもそれに比例するように、
漏れ出すようになっているらしい。
まだヒートの周期には間があるはずやのに、
抑えが効かなくなってきている身体に焦りが募る……。
神宮寺『……なんかさ、今日ずーっと甘い匂いしない?』
岸『わかる!! なんかこう、女優さんみたいなすげーいい匂いする……』
髙橋『ねぇ岸くん、女優さん好きすぎない?笑 ジン聞いて! こないだもさ、ドラマ決まったよって報告したら、真っ先に「共演の女優さん誰!?」とか聞いてきてぇ笑』
岸『海人!! バカ、お前それ言うなって!!!笑 違っ、普通によ!? 変な意味じゃなく!!普通にっ!』
楽屋に響く、いつもの賑やかで平和な会話。