第1章 【僕にできること】
廉がΩであることを知らないフリをして、今まで通り「βの相棒」として隣で笑う海人。
しかしその裏で、海人は密かに、そして本気で、命がけで廉を守るための勉強を始めようとしていた。
「ゆっくり休んで。これからは俺がもっと廉の体調気をつけるから。二人で無理しないでやっていこうね」
「……おん。ありがとな、海人」
安心したように目を閉じる廉を見つめながら、海人の胸の奥で、静かだが固い決意が芽生えていた。
自分はβだ。αのようにフェロモンで廉のヒートの苦しみを和らげることも、番になって運命を分かち合うこともできない。αとΩの理(ことわり)の前に、βの自分はいかにも無力に見える。
けれど――βだからこそ、フェロモンに惑わされず、一人の人間として、等身大の「相棒」として廉を支えられるはずだ。
(熱が出たら冷ましてあげたい。苦しい時に、ちゃんと理由の分かった適切な手当てをしてあげたい。ただの気休めじゃなくて、本当に廉を助けられる知識と資格が欲しい)
海人はスマホを取り出し、画面を伏せながら静かに検索欄へ文字を打ち込んだ。
『看護師資格 社会人 取得』
『医療知識 通信講座 オメガバース対応』
アイドルとしての過酷なスケジュールをこなしながら、看護師の資格を取るなんて無茶かもしれない。諦めろと笑われるかもしれない。
それでも、目の前で一人苦しむ廉の本当の痛みを理解し、陰から完璧にケアできる「最高の相棒」になるためなら、どんな努力だってできる気がした。
「廉、俺ね……もっと強くなるから」
小さな呟きは、すやすやと寝息を立て始めた廉の耳には届かない。
自分がΩであることを秘密にし続ける廉と、それを知りながら「何も知らないベータの相棒」として裏で密かに廉を守る準備を始める海人。