第1章 【僕にできること】
「……れぇん? 大丈夫……?」
ぼやける視界の中、
掠れた声に呼ばれてゆっくりと目を開けると、
見たこともないくらい心配そうな顔をして
ベッドの上の俺を覗き込む海人。
白を基調とした無機質な室内と、
消毒液の匂い。
「かい……と……? 俺……」
「廉が、楽屋で急に倒れたんだから、
すごくびっくりしたんだよ。……覚えてる?」
「……なんとなく。ごめんな、心配かけて……」
暫く黙り込んだ海人がキッと俺を睨みつけ
目に涙をたっぷり溜めて抗議した。
「ほんとだよ!!
死っ死んじゃうかと思ったんだからぁ!」
貧血と重度の過労だって……熱も高くてさ、本当に心配したんだから」
海人はそう言って安堵したように息をつき、いつもの柔らかい笑みを浮かべた。
廉は激しい倦怠感が残る体をさすりながら、心の中でそっと安堵の息を漏らす。番解消後のヒートの負荷は想像以上で、フェロモンが出なくなった代わりに激痛と熱が体を蝕み、意識を失ってしまったのだった。
(良かった……病名は貧血と過労ってことになってる。海人にはバレてない……)
廉は「ごめんな、驚かせて」と弱々しく笑ってみせた。自分がΩであること、そしてかつて紫耀と番を組み、それを解いたばかりだという悲痛な秘密を守れたことにホッとしていた。
しかし、廉が目元を覆って横になっているその傍らで、海人は必死に拳を握りしめていた。