第1章 【僕にできること】
廉の言葉に俺は何も返せなかった。
ただ、その言葉だけが、深く胸に刺さった。
それでも、これが二人にとって
一番いい方法だと思うしかなかった。
今すぐ番を解消すれば、
残された時間まで壊れてしまうかもしれない。
だから、今だけは。
5人で活動する最後の日までは、
今まで通りでいる。
そして、すべてが終わったあと―――…
次のヒートが来たら、
番を解消する。
それが二人の出した答えだった。
「……分かった」
やがて廉が、小さく頷く。
涙を拭いながら、
それでも紫耀の服を離さない。
「けど……それまでは、
俺の番でおってくれるんよね?」
「……うん」
紫耀は静かに頷いた。
「それまでは、ちゃんと廉の番でいる」
その儚い約束が、
残された最後の時間を繋ぎとめるものとなった。
***
もういっそ、
次のヒートなんか来なかったらええのに……
そんな俺の願いも虚しく、3人の脱退から3ヶ月後の
まだ暑い夏の日、容赦なくヒートは訪れた。
最後に5人で仕事をしたあの日から開くことのなかった
紫耀のトークルームを開き、メッセージを送る。
すぐに返信が来て、今すぐに向かうと言ってくれた
紫耀を俺の部屋で静かに待つ。
……こんなに生きた心地がせん時間は初めてやった。
「ごめん、廉……っ」
「……わかっとる。約束……やもんな」
そう言って始まった、最後の夜。
番を解消する行為―――
それは、達した瞬間にΩのうなじに浮かび上がる
噛み跡を、再び噛んで上書きすること。
俺は今まで以上に、廉に優しく触れた。
愛してると言えない代わりに、
体中にキスの雨を降らせる。
一緒にいようと言えない代わりに、
廉の名前を呼んだ。
廉の瞳からは、ずっと涙が溢れていた。
五人での最後の仕事のときだって
気丈にふるまって涙を流さなかった廉が……。
きっと、本当は嫌なんだろう。
俺だって、分かってる。
それでも必死に受け入れようとしている廉が、
あまりにも健気で――胸が軋んだ。
あの日、廉から取り上げた言葉が、
今にも廉の唇から零れそうになる。
けれど。
廉は唇をきゅっと噛み締めて、
その言葉を飲み込んだ。