第1章 【僕にできること】
演技仕事以外では、殆ど涙を見せない廉。
そんな廉が、 声を震わせて
泣いている―――…。
その姿が、 俺の胸を容赦なく抉った。
「……っ」
本当は、 優しい言葉をかけてやりたかった。
「大丈夫だよ」って。
「俺はずっと、隣にいるよ」って。
そう言って、 今すぐ強く抱きしめてやりたかった。
けれど――
喉の奥が固く塞がって、 何一つ言葉にならなかった。
確かに、廉の言うとおりだとも思った。
同じグループにいる今みたいにはできなくても
可能なときだけでも、 俺が廉を鎮めてやれるのなら
番がいなくなるよりはマシなのかもしれない―――
そんなふうに考えたこともある。
だけど、これから先、
海外での仕事を増やそうとしてる俺が
廉の側にいられない日が増えることは、
俺自身が誰よりも分かっていた。
会いたくても、会えない日が来る。
駆けつけてやりたくても、
どうしても駆けつけられない日が来る。
そんな未来が分かっているのに、
「もしかしたら」と希望を持たせることが、
本当に廉の救いになる……?
もし、ヒートになった廉が俺を頼って
連絡してきたとして―――、
俺は海の向こうにいて、
廉のヒート期間中一度も会いに行けなかったら。
期待していた分だけ、
廉はきっと、深く傷つく。
そのときの廉の気持ちを考えたら
中途半端に俺が存在することが
廉の救いになるとはとても思えなかった。
未来を約束できない自分が、 生半可な優しさを
見せることほど、 残酷なことはない。
それが一番、
廉を傷つけると分かっていたから……。
その悔しさに、苦々しく唇を強く噛み締めると
鉄のような血の味が、 口の中いっぱいに広がった。
何も言えなかった俺は、 ただ――
泣きじゃくる廉の背中を、 静かにさすること
しかできなかった。