第1章 【僕にできること】
二人で過ごす部屋には確かに甘い愛おしさが
満ちていたし、隣に並んで笑い合う時間には
ちゃんと、幸せがあった。
けれど、そんな穏やかで満たされた日々にも、
容赦なく終焉は訪れる。
理由は言うまでもなく、
紫耀のグループ脱退―――…。
脱退に向けた現実的な話し合いが進められて
いく中で、俺たちは避けては通れへん「番解消」
の話し合いも並行して進めとって……、
これがまた、
想像を絶するくらい、俺にはキツくて
夜中に親友を呼びつけてしまうくらい
精神的にまいっとったのを覚えとる。
***
薄暗い部屋。
ソファーに並んで腰掛けた紫耀が
暫く黙り込んだ後、静かに口を開く。
「これからは別々の道を歩くことになる。
今までみたいに、廉が苦しい時にいつでも
駆けつけて、救ってやれるわけじゃなくなる……」
紫耀の低い声が、静寂に重く響いた。
優しくて……でも迷いのないその声に
紫耀の本気度が窺えて怖かった。
俺は震える拳を握りしめ、言葉を呑み込む。
「番関係って……お前が苦しい時に抱いて救う約束
みたいなもんだろ? 俺は、守れない約束で
お前を苦しめたくない……」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がずきりと痛んだ。
……あぁ。
紫耀らしいなって思った。
紫耀らしい、優しさやなって。
紫耀は中途半端なことを嫌う、ゼロか百かの人間で。
やからこそ誰よりもパフォーマンスにストイック
で、自分で決めたことにはどこまでも真っ直ぐで。
ときには行き過ぎに見えるその真っ直ぐさが
心配になることもあったけど、
俺は紫耀のそういうところに憧れとったし、
ずっと、尊敬しとった。
けど―――、
紫耀のその真っ直ぐさがこんなにも残酷に突き刺さる
日がくるなんて思ってもなかった。
『守れない約束』
紫耀は多分、俺を傷つけないために
どういう未来を選択するのが最善か。
きっと、あらゆる可能性を考えてくれたんやと思う。
―――わかっとる。
わかっとるからこそ何も言われへんかった……。
「……そっか」
やっと出てきた声は、
自分でも驚くほど小さかった。
紫耀は何も言わない。
ただ、隣に座ったまま、俺を見つめている。
その目が優しくて……
それだけで、もう無理やった。