第1章 【僕にできること】
「……本当に?」
「本当に。」
廉の瞳をまっすぐに見つめて放ったその言葉に、
廉の表情が少しだけ緩んだ気がした。
そして、俺の手に細い指を重ねた廉が
湿度のある瞳で見つめ返してくる。
廉の薄茶色の瞳が映しているのは
俺だけ―――…
「俺、紫耀と番になる。」
番になるといってもαの俺とΩの廉では重みが全然違う
ことはαの俺ですら容易に想像がつく。
だから、
焦らせたくはなかった。
後悔してほしくなかったから……。
けど、だからこそ、
俺の提案を受け入れてくれたことが、嬉しかった。
「……本当にいいの?」
「おん」
「この雰囲気に流されてない?」
「流されとらんよ。
ちゃんと、考えた」
そう言うと、廉は一度、言葉を止め
何かを確かめるように、 ゆっくりと息を吐いた。
そして、伏せていた顔を上げ、
1つ、大きく深呼吸をして―――
「俺な、アイドル辞めたくない。」
「……不思議よな。紫耀は知っとると思うけど、
昔の俺、あんまやる気なかったやん。
人前に立つのもあんま好きやなかったし。」
「まぁ……俺は廉がそうとは思ってなかったけど、
誤解されやすくはあったかもね。」
「ふはっ、めっちゃ言葉選んでくれるやん……」
照れくさそうに笑って、
廉は少しだけ、視線を逸らした。
「まぁ、アイドルはやりたくなかった仕事の一つ
やった俺が、いまもこの仕事続けられてんのは
奇跡みたいなもんで……
でも、辞めたくないって思わせてくれたのは、
間違いなくファンのみんなのおかげ。」
「ずっと応援してくれとる家族とか、
親友にも恩返ししたいしな。」
そこまで言うと、廉は一瞬、天井を仰いだ。
何かを言いかけるように唇をわずかに動かし
かけたけれど、すぐには言葉にせず、
少しだけ間を置いてから、 ぽつりと続ける。
「……でも一番は……
他でもない、メンバーのおかげ。」
言ったそばから恥ずかしくなったのか、
すぐに視線を逸らしてしまったけれど。