第10章 お風呂に入ろう
佐助が額に筋を浮かぶ。甲斐まで我慢しろと言いたいところだが、長期の任務、しかもお守り付きとあらばさぞや。男としてわからないこともない。だが、うめがいる状態で私欲に走ろうとはとんでもない話だ。
「だからひっかいた」
「よしっ!」
「そしたらね、わかったわかったって言ってね。うめに相手しろって。だからうめしかたくなく、だよ」
「……仕方なく?」
面白半分の行為で二度もうめのひっかきを食らうとは愚かな男だ。佐助が結論づける一方で、うめは少しの間黙って、目を伏せてみせる。長いまつげの奥でらんらんと光る瞳。見たことのないその表情に、佐助は不安を覚えた。
「つい、ついだよ。ちょっとだけ……ね」
頬を赤く染める、うめ。
その体が小さく震える--否、震えているのはうめを押さえつける佐助の手だ。佐助の脳裏に浮かぶのは、安宿の一室で、十蔵と目の前の少女が重なる姿。
おい、嘘だろ。あれだけ”あの”修行を嫌がっていたというのに。よりにもよってあのオッサンかよと。
「おいしかった、あのお酒……あでっ!」
佐助は衝動的に手の力を抜いた。
予想外だったのだろう。うめは地面で二度ほど弾んで、そのまま突っ伏した。
「知るか! いいかお前、二度とあのオヤジと一緒に出掛けるなよ!」
「おうぼうだよ! 組ませたの佐助じゃん!!」
地面から顔だけあげてギャンギャンと喚きたてるが、容赦なく佐助はその背を踏みつけた。
「元はと言えばお前が悪い!!!」
「なんでよー!!!」