合同リレー作品集【鬼滅・呪術・ヒロアカ・WB 他】
第5章 お題小説 花モチーフの歌 + α
あの日、扉の隙間から見えた光景を――俺はまだ鮮明に覚えている。
談話室のソファで眠る五条先生と、その傍らに座るあいつ。
(……なにやってんだ)
部屋に入ろうと足を踏み出そうとして、やめた。
いや、踏み出せなかった。
眠る五条先生を見つめる彼女の横顔。
俺や虎杖たちに見せるような顔じゃない。
熱を帯びて、ひどく切実で。
今にも泣き出しそうな――紛れもなく、恋をしているやつの顔だった。
俺は踵を返し、その場を離れた。
廊下を歩きながら、どうしようもない苛立ちが足元にまとわりついていたのを覚えている。
「伏黒くん」
隣を歩く声に、ふっと意識が戻る。
任務の帰り道。
市街地から少し離れた川沿いの土手を、俺たちは並んで歩いていた。
もう五月なのに、夕暮れの風はまだ肌寒い。
祓った呪霊は低級だったが、まだ術式の扱いや実戦に慣れていない彼女のことが気にかかって、俺は常に神経を張り詰めていた。
無事に終わって、ようやく肩の力が抜けたところだった。
ふと横から視線を感じて隣を見ると、彼女がちらちらとこっちを窺っていた。
「……なんだよ」
「え、あ……えっと」
口を開きかけては、また閉じて。
もじもじと何かをためらっている。
「言いたいことがあるなら、早く言えよ」
「うん……あのね」
今日の任務のことだろうか。
それとも……俺に、何か聞きたいことでもあるのか。
彼女は視線を落としたまま、指先で毛先をいじっていた。
落ち着かない時にそうするのを、俺は知っている。
「……五条先生って、普段、ラブソングとか聴くのかな」
そう言った彼女の顔が、あの談話室で五条先生を見つめていた横顔と重なる。
(まただ……)
彼女から顔を背けて、視線を足元に落とした。
アスファルトの隙間に、黄色いたんぽぽが寄り添うように咲いている。
「さあな。あの人の趣味なんて知らない」
「そ、そうだよね……ごめんね、変なこと聞いて」
その小さな声に、あの日の苛立ちがまた湧き上がってくる。
(……なんで、あの人ばっかりなんだよ)
今こうして隣を歩いているのは俺なのに。
こいつの頭の中には、いつだって先生がいる。
あの夜の何かが、彼女の心を完全にあの人に縛り付けている。