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露花の恋【進撃の巨人】

第2章 Episode 00


「あ...」

気まずい事を聞いてしまったと、エミリーはすぐに後悔した。調査兵であっても家庭を築き、帰る家がある兵士もいる。エミリーも今は恋や愛などとうつつを抜かす暇などないが、いつか自分にもそんな未来が訪れるのだろうかと考えることもある。しかしエルヴィンの考えは違っていた。確かに、いつ戦地で死ぬともわからない立場で結婚を考えられないのも無理はないだろう。

「...じゃあ私はこれで。あまり無理をなさらずに...」
「元はあいつも調査兵を目指していたんだ。俺とあいつはよく自分夢について語り合い、一緒に壁外へ行こうと約束したんだ」
「え...?」

エミリーがある程度の介抱を済ませ、その場を去ろうとした時。エルヴィンは突然独りでに語り始めた。思いの外酒が深く回っているらしく、目を閉じていつかの光景を思い出している。珍しく覚束ない呂律で話すエルヴィンが心配で...いや、彼の事をもっと知りたくて、エミリーは立ち去ろうとする足を止める。

「訓練兵時代、よく行く酒場に気丈な娘がいた。俺たち男どもよく休暇にその酒場へ寄って、よせば良いのに酔い潰れるまで飲んで騒いだもんだ」
「...」
「...ある時あいつは、憲兵になると言った。...娘に惚れていたんだ。彼女と内地で暮らすために、危険な調査兵にはなれないと断られた」

...きっと、この男もその酒場の娘に惚れていた。苦しそうに、懐かしそうに思い出話を語るエルヴィンを見つめながら、エミリーは胸が握りつぶされた様に苦しくなる。数年間ずっと側に居て、隣で戦い、尊敬する彼のことを見て来たというのに。エミリーは自分が知らない彼の事を知るのが怖くなった。


「班長は...どうして調査兵を選んだんですか。死ぬかもしれない、大切な人達とも道を別れてまでどうして...」
「...俺には夢がある。幼い頃に父へ問うた疑問の答えを知りたいんだ。...その答えはきっと壁外にある」
「...」

男は友人や想い人よりも、夢を選んだ。彼が知りたい答えとは、エミリーもよくは分からない。

それからは結局、へべれけになって言葉も返さなくなったエルヴィンをエミリーは部屋まで送り届けた。彼の相部屋のミケにも力を借りこととなったが、翌日に昨夜の謝罪と礼をエルヴィンから受け取りそれ以上は何も起こらなかった。

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