第1章 Episode 01
「それより、私が会議に出ている間の彼らの動きはどうだった。書類の在処には辿り着きそうか」
「....いいえ。さっきも貴方の部屋を隅々まで探っているようだったけど、彼らはまだ何の手掛かりも掴めてない。きっと、貴方が肌身離さず持っているって思っているでしょうね」
エミリーは書類を携帯する腰下をギュッと握りしめながらそう答えて、罪悪感を露わにした表情を浮かべた。彼らが本当に欲しいものは、エルヴィンではなく、自分が持っている。エルヴィンの命が狙われる限り、彼らがエミリーの監視を警戒する限り、証拠書類に辿り着くことは無い。エルヴィンの思惑は上手くいっていた。
「だが、いつまでも彼らの目を背けさせることができる訳ではないだろう。君には然るべき時にそれを、王都にいるダリス・ザックレーに届けてもらわなければならない」
「....まさか、そんな。壁外調査の時に、私にこれを届けろって言うの...!?その為に彼らを、まだ未熟な兵士を巨人のいる壁外に連れて行こうだなんて...!!」
エミリーはエルヴィンの補佐官を務めるようになって、もう何年も経っている。それこそ彼が班長であった時代からの仲だ。彼が考えている事は、言葉にせずとも手に取るように分かる。それが例え残酷すぎる結末であっても。
「君が王都に出立する時、なるべく彼らを君から遠ざけなければならない。それこそ壁外へ連れ出し、彼らが事の本末を知った際にも君を追えなくした方がいいだろう。それにもう会議で決まった事だ」
「っ....でも、そんな...!」
エルヴィンの声は酷く冷静で、エミリーはこうなってしまった彼がもう止められない事は分かっている。また罪を重ねる、仲間を犠牲にしてしまうかもしれない事実に、エミリーは焦りばかりが募っていた。