第1章 Episode 01
女は南の空を眺めていた。遥か遠く、壁を超えたの空の下で、自由を求めて戦う仲間の無事を祈って。
「_今ごろ壁外調査は折り返しといったところか。君も心配だろう」
「...ザックレー総統。えぇ、とても心配です。雨雲がかかっているようなので、帰還は少し早まるかもしれません」
エルヴィン・スミスが議会の反対派を黙らせて掴んだ今回の第23回壁外調査、そこにエミリーの姿は無かった。彼女はエルヴィンから託されたロヴォフの不正の証拠である書類を、王都まで届ける役目を引き受けていたのだ。
全兵団トップであるダリス・ザックレーは、エルヴィンが予想した通り、したたかな人物であった。いずれ兵団全体のコントロールを目論んでいたロヴォフの夢は露と消え、これに伴い壁外調査の実施を阻む議会という障壁は無くなった。全てエルヴィンが考えた筋書き通りになったのだ。
「そういえば聞いて無かったな。君はなぜ調査兵団に入ったんだ。君は南東区の訓練兵団をトップで卒業したと聞いていたが...」
「元は憲兵を目指していました。けれど私の親友は壁の外に憧れて、私も彼女の夢を一緒に見たいと思ったんです」
儚げな表情でそう話すエミリーの様子に、ザックレーは一瞬で察しを得る。悲しい過去の記憶を辿る人間は、いつも死を求める顔をするものだ。
「....惜しいな。夢を持つ若者が散っていくのは」
「えぇ、本当に_」
エミリーはその後ザックレーから王都までの苦労を労われ、疲れを癒すよう言われ彼と別れた。しかし実際のところ壁外調査から兵士達が帰ってくる頃には、人手不足が普段よりも更に拍車がかかる為、直ぐにここを立たなければならない。調査兵団本部に着く頃にはもう本隊も帰還を済ませている頃だろう。エミリーは窓の外を覗いて、独り言を呟いた。
「...また、あの子達に会えるかな」
エミリーはリヴァイ達に謝りたかった。今回のロヴォフ失脚の件で彼らを利用したこと、貧しくも平和な地下街での暮らしを奪ったこと。彼らには他のやりたい事、夢があったかもしれない。中にはまだ年若い少女もいた。もし、今まさに彼らが巨人の恐怖に晒されているかもしれないとエミリーは想像した時、自分がまた償いきれない罪を背負ったことを自覚した。南に流れる雲を眺めながら、彼女は後悔を繰り返していた。