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花水木が咲く頃に ꕥヒロアカꕥ

第1章 𝔸𝕗𝕣𝕚𝕔𝕒𝕟 𝕔𝕠𝕣𝕟 𝕝𝕚𝕝𝕪




…死ぬ、かも
その瞬間視界に映る全てがスロー再生される映像を見るような感覚だった

私は咄嗟に男の子の頭から足まで覆い尽くすように抱き締める
最後に思ったことはお母さんのことでも後悔でもなくて


私の力で誰かの心を動かせたんだ…
そんな小さな思い込み




「みつけた…腹くくんのはまだ早いかな
特にそっちの女のコ」


軽口の割には余裕がないその声に顔を上げ、まだ自分が生きていることに驚く。今にも倒れてきそうだった木はどこ…?呆気に取られているうちに腕を思い切り引かれ、ウエストに手を巻かれる


そしてあり得ないことに自分の体が宙に浮いたのだ
けれどもっとあり得ないのは私ともう片方に男の子を両脇に抱えながら飛ぶこの人だ


……この人…知ってる、かも
会ったことあるとかではなく雑誌やテレビなどで見かけたことがある
つまり、ヒーローだ

ヒーローが私達を助けに来てくれたんだ
感動する気持ちと一緒に情けない気持ちも湧いてくる
……やだな、助けてもらったのにこんなの


飛行中たまに、だけどグラっと傾くことがあった
気になって視線を後ろへ向けるとこの人に生えている赤く靭やかな羽がポロポロと焼け落ちていた

……火でなくなっちゃったんだ
燃えてなくなったせいで飛行が不安定なのかもしれない
胸の中に錘がまた落ちては募り重たい


『…………ごめん…なさい』


気付けば羽音のような音量で謝っていた
真上から見て火は広範囲まで広がっていたことを知る
炎が届いてない広場に多くの人が群がっていた
あぁ…そっかこの人がみんなを助けたんだこんなに多くの人を

比べてもしょうがないのに…

「…何に謝ってるか知らないけどさ
じゃあオレはキミにありがとうって言っておくよ」

荒い息を混ぜた声で彼は返事をする
疲れて喋らせないほうがいいのはわかっていたのにその返事が余りにも矛盾していて気になってつい聞き返してしまった


『え、私に…どうして?』


「この子、笑ってる」


知らず知らずのうちに息を呑み、彼のジャケットを強く握り締めていた


「あの状況で君がこの子を助けたんだよ
こんな安心しきった顔オレ見たことないわ」


冗談っぽく笑う彼に釣られて私もクスッと笑みを漏らす
一緒に涙が溢れてきたのはホッとしたからだと思う、多分

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