第9章 𝕎𝕒𝕥𝕖𝕣 ℍ𝕪𝕒𝕔𝕚𝕟𝕥𝕙
啓悟くんは私達から少し離れた場所で、呑気そうに立って手を振っている。まるで何も知らないとでも言いたげに
轟くんがプロヒーローホークスの姿に呆気にとられてる隙に、手を振り払って距離を取る。それから一度も振り返らず啓悟くんの元へと走りその胸へ飛び込む。
「…っと、どうし…」
『飛んで…っ!帰ろう…!!』
「……いいの?」
啓悟くんは轟くんにチラリと視線を寄越したあと再び私へと向けた。なんで啓悟くんがそんなこと気にするのっ…自分勝手だと言われても胸が痛かった…啓悟くんのことも、轟くんのことを考えると
『…お願いッ』
顔を布に押し付けて掠れた私の声を聞き取るなり、軽く溜息を吐いてから翼を広げた。太ももの後ろと背中に腕を回され、ギュッときつく抱えられた状態で地面が遠くなっていく。
「 ひかり!!!」
『っ!』
早く早く…早く…!!!
胸のあたりが締め付けられるように痛くて苦しくて罪悪感でいっぱいになる。
゛進んだら戻れない ゛
啓悟くんの言葉がふと蘇る。私は一体どこに進もうとしてるの、もう戻れないのに
゛キミはね持ちたくても持てない
だって選べ…
「 ひかりちゃん、大丈夫?」
『あぁ…うん』
顔を上げれば上空で少し肌寒くて身震いする。視線を落とせばミニチュアのような街や木々が点々としてる。…誰の声も音も聞こえなくて落ち着く
「こういう役回りほんとはやりたくないんだけど」
『ごめんね』
「いいよ…でもさ ひかりちゃん焦凍くんのこと好きなんじゃないの」
どうして?と啓悟くんが私の顔を覗き込む。一体どこから聞いていたんだろう。口を開くけど声より先に涙が零れ落ちていく。
『…っ中途半端じゃいけないって…そう…思って…いや…違うっ…怖かったから…逃げたかったのかも…』
優しい手つきで頭を撫でられ、そのまま下へと降りて赤ちゃんをあやすみたいに背中を擦ってくれる。
『…だったら…全部…なかったことにすれば…いいって…っ』
「ん、それで?」
『好きだよっ…好きだから…大切だから…!』
「わかってる、知ってるから」
違う、啓悟くんが、なんだよ…
大切にしてきた想いだから伝えられない
気持ちが二つあるからどちらにも行けない