第6章 𝔽𝕠𝕦𝕣 𝕠'𝕔𝕝𝕠𝕔𝕜
過ぎ去っていく時間を拒むようにお互い唇を離さなかった
いまがとても幸せで終わらせるには惜しすぎるから
撫でる以上のことはしないけど、たまに角度を変えては相手を求める
気付けば両手とも轟くんのシャツをつまんでいた
何分経過したのか分からない
唇が離れたタイミングで、轟くんは私を思い切り引き寄せ強く抱擁する
服越しに感じる早い鼓動と彼の爽やかな匂いに満足してこのまま眠れそうだった
「不安にさせて悪かった」
轟くんは私の肩に顔を埋め、掠れた声を耳に響かせた
背中に回した手に無意識に力が入る
「…正直自分でもよく分からねぇ
秋月 のことすげぇ大事だと思ってる」
ぽつりぽつりと溢すその言葉を聞き逃さないように静かに待つ
「顔を見るたびにオレのものにしたいって思う
他の奴と話してんのみると無性に腹が立つ
耐えられなくてついその肌に触れたくなる
何よりもオレがいま守りたものには違いねぇんだが…」
゛怖い ゛
その途切れた言葉の続きがなぜだか頭に浮かんだ
それを自覚して気持ちを言葉にしようすると怖いんだ
それは轟くんもそうで、私もそうだ
彼の胸から顔を上げ、しっかり目を合わせる
『…私、待つよ
轟くんが伝えたいことしっかり気持ちに出来るまで
もう逃げたりしないから』
さっきのことを行ったつもりなのに
なぜか遠い昔の記憶がちらつく
ニッと、大きく笑顔を作ってみせると轟くんも柔らかく笑って見せる
「…前に 秋月 が誰かに似てるって言ったの覚えてるか?」
『あ、あぁうん』
つい歯切れの悪い返事をしてしまう
妙に緊張して心臓が嫌な音を立てる
「雰囲気が…どことなくお母さんに似てると思った
初めてあったときも、一緒に帰るようになってからはますます」
安堵して気付かれないよう小さく息を吐く
そう語る轟くんはどこか切なげで私と同じように遠い昔の記憶を思い出してるようだった
温かくて安心する
…轟くんにとってお母さんはどんな存在なんだろ
前回やらかしているから流石に不躾に聞こうとは思わなかった
轟くんが言ってくれるまで待つから
『…もうそろそろ帰ろっか』
今更だけど自分の格好に恥ずかしくなってくる
早く着替えてしまいたくて轟くんから離れようとする
「…最後にもう一度キスしてぇ」