第10章 知らない女の子と五条くん
「寧々も何か買う?」
「わ、私は…」
ピンクと黒の交わったチェックの紙袋を持った硝子は、携帯を片手に問いかけた。
「買うものないなら五条呼ぶけど」
「ま、待って」
特に買う予定なんてなかったし、今すぐに必要なものでもないけど…けど、
どうしても何かを自分のものとして固持しておきたくて。
不安になった心が惑わされて。
気がつけば目を引く下着コーナーではなく、隅っこに追いやられた靴下売り場にふらふらと来ていた。
「こ、これを買うから待ってて!」
勝手に動いた足と同様に、手までが勝手に伸びた。
サファイアのような澄んだ青い布地に、目を細めて満足気に笑う猫の刺繍が入った靴下。
特に趣味でも好みでも何でもないそれに手が伸びたのは。
お揃いでもないのに浮かんでしまう五条くんの顔の訳は。
シャーペンやボールペンの様に同じデザインを揃えることのできないお店で。
五条くんが私にプレゼントしてくれた、あの浴衣のような色合いだから?