第10章 知らない女の子と五条くん
「そ、そんな際どいものは着けないわ…!」
「分かんないじゃん。好きな男にこういうのが好みって言われたら、合わせようとするのも恋なんじゃない?」
硝子はチラリとレジの方を見た。
先程まで隣にいた女性客が会計を済ませ、店を出るところまでを見送る。
店を出た先に五条くんの姿はなく、どこかへと逃げ去ったと分かっているのに
脳裏に浮かぶのは憎たらしいほどに満面の笑みの五条くん。
「じ、自分のものは自分で選ぶわよ…!」
同時に馬鹿馬鹿しい考えが浮かんで、払拭するように硝子の手にある下着を売り場に戻した。
「寧々、自分の好きな人がずっと自分を選んでくれる確証ってないよ。手に入れたいなら努力しなきゃだし、手に入れても取られないように努力しなきゃだし」
「…な、何の話「てことで、私これ買うね」
「えっ?」
硝子は私が戻した赤いセクシーな下着を手に取って、迷うことなくレジに向かった。
「こんな風に奪いにくる奴だっているだろうしね」
振り返りざま、硝子は意味ありげに言葉を投げた。
サイズ違いも合わせてラスト1着だったそれを、硝子は会計を済ませて自分のものにした。