第13章 熱々のくらむちゃうだーの季節
それから吾郎さんが口を開いて言った。
「でもよ、穂乃果さん。すまねえけど、ここは江戸だ。穂乃果さんのいた時代とは価値観も風習も全部が違う。確かに穂乃果さんの作る歯ブラシや、おむすびや料理はすごいけど・・・・うちの農家には跡取りが必要なんだ!笑子が可愛いのはわかっているし、大事にはしたい。けど、男子を望むことがそんなにいけないのかい?」
「いえ、男子を望むのはいいんです。でも笑子ちゃんも生まれたばかりですし、その言葉はまだ早いんじゃないかと思いまして・・・・」
「俺には出産や妊娠の苦労はわからねぇ。だからこそ笑子を大事に育てたいとは思っている。でも、いずれは嫁に出てしまう。そうと思うと段々と接し方がわからなくなってしまうのではないかと思ってな。もちろん、命懸けで産んでくれたお綾には感謝してるけどよ・・・・すまねぇ」
吾郎さんは言葉を選びつつ物悲しげな表情でそう言った。
それを聞いた綾さんが俯いた。
「江戸ではまだ女性は人間以下ましてや嫁いだ身となれば尚更と言う考えの人が多いと思う。それでも俺は、お綾のことを気遣って来たつもりだった。でも、実際に女の子が生まれちまって・・・・俺だってこんなこと思いたくないさ。実家が商いだったら男の子を次になんて言葉はないはずだ。農家だから親父に従うしかなかったんだ。俺達の家にも米を届けてくれているから、親父と喧嘩にはなりたくなかった。確かに次は跡取りを頼むぞと言われて驚いたけれど・・・・お綾もすまねぇ・・・・俺は親父には反論できなかった。俺だって笑子が生まれたばっかりでこんなこと言いたくなったんだ。でも親父の言葉が重圧になってしまって・・・・親父は逆らうと怖いんだ。実家では親父の言うことは絶対だったから。まぁ、結婚を許してくれただけ性格が丸くなったんだと思っていたんだがな」
吾郎さんの目には後悔が現れていた。
すると綾さんが顔を上げて言った。
「吾郎、本音が聞けて嬉しかったよ。ありがとう。お義父さんに反論できなくてもいい。でも吾郎にも真っ当な考えがあるなら心の底だけでも曲げないでほしい。お義父さんの前では同調して頷いておけばいいんじゃない?確かにお米をもらっている身だから親子関係を悪くしたくないもんね。勇気を出して話してくれてありがとう」
綾さんと吾郎さんは握手を交わして微笑んだ。
