第3章 ブラックスパイダー
深夜0時過ぎ。
暗めに設定された白い照明。
敷かれたダブル布団。
オイルライターの蓋が開かれる金属音。
ボッと付けられる火の音。
布団に座り煙草を咥える彼の横顔をなつはじっと見つめて顔を緩ませている。
彼の横顔と濡れた桜色の髪から滴る水滴が何とも言えない色気を放っていた。彼は風呂上がりだった。
網戸にされたベランダに向けて吐き出された煙は風により部屋に逆流してくる。甘い香りだ。
パンツ1枚で半裸の彼の傍にはTシャツが無造作に置かれており、煙草を吸いながら片手でガシガシと濡れた頭を拭いている。
「………あっま」
「ご、ごめん…煙草、詳しくなくて…適当に選んじゃって…ブラックスパイダーのココナッツ味なんだってこれ!…へへ…」
嘘だ。
なつは男が甘い物を好かないのを知っていながらわざわざ"煙草 甘い"と検索して探して買ってきたのだ。
「いつもコレを吸っているの見てるだろ。次からは間違えるな」
彼は少し不機嫌そうにそう言うと頭を拭いていた手を止めてタオルを布団に投げ捨てるとテーブルに置いてあったなつが入浴中に吸い終わったであろういつも吸っている銘柄の煙草の空き箱をなつの頭に投げた。