第34章 天女のノート ーお狐さまと未来から来た天然姫ー 【光秀】
自分の手と言葉により彼女の顔が歪めば歪むほどに、ゾクゾクするような不思議な色香が立ち上るのを光秀は肌で感じていた。
愉悦と興奮。
名無しを責めることで獲られる新たな感情。
先ほどまでは心を揺さぶられたことに憤りや抵抗を覚えていたが、次第に未知の感情を引き出されるのが新鮮で、それも悪くないと思えてきた。
「お前は何者だ?秘密を俺に明かせ、ほら…良い子だから…」
名無しの耳元で囁きながら、片手で熱い頬を包みそっと撫でていく。
その瞬間、
「!!」
名無しは一気にしゃがみこんで光秀の腕の檻からすり抜ける。
そのまま逃げ出したものの何かにつまづき、グラリと体が傾いた。
予想外の行動に光秀は一瞬ひるんだが、名無しの前方の地面には農具のむき出しの刃があることに気づき、
(危ない!)
反射的に手を伸ばして彼女の腰を引き寄せた。
「…危なかったな」
図らずも名無しを抱きしめる体勢になり、その華奢でやわらかな感触に、光秀の内から別の思いが溢れていく。
(…心地よいな…)
目を閉じて、そのまま抱きしめ続けた。
(しばらくこうしていたい…)
己の心が赴くままに委ねてみると、
「名無し…とてもじゃないが、お前からは目が離せない」
そんな言葉が唇から素直に零れた。
(俺は…この謎だらけの小娘に魅かれている…)
それを認めた途端に、嗜虐心からいじめすぎて結果的に名無しを危険にさらしたことを後悔した。
「…悪かったな、怖がらせて。お前はいじめがいがあるからつい、な」
一気に冷静さが戻り、名無しの身体から手を離す。
「全部話してみろ、悪いようにはしない」
正体を暴いてやりたい、
そう思ってここへ連れ込んだが、今は純粋に名無しをもっと深く知りたかった。
「それに、お前はこれを探しているんだろう?」
忍びの男が落とした帳面を差し出してみると、
「あっ!」
予想通りに名無しは食いつく。
(やはり、あの男と関係があったか)
手の届かない高さに帳面を掲げると、名無しは必死にぴょんぴょんと跳ねて奪おうとする。
「お前の秘密を正直に言うなら、渡してやらんこともない」
名無しは小さくため息をつくと、すべてを話し始めた。