第34章 天女のノート ーお狐さまと未来から来た天然姫ー 【光秀】
翌日
まだ姿を見せない名無しを探し、彼女が行きそうな場所を巡っていた光秀は、何者かの追跡に気付いた。
かなりの手練らしく、巧妙に気配を隠しながら後をつけてくる。
光秀は意識を研ぎ澄ませ、相手を感知した。
上手く撹乱し追跡から逃れ、逆に相手を追いつめてみると、忍びらしきその男はまったく予想外の反応を見せた。
「…や…やられた…さすがは光秀さん!!」
(何なんだ?この男は)
男から向けられる眼差し、そこにはなぜか憧憬の色がありありと浮かんでいる。
「ヤバい、ついリスペクトが出てしまった」
はっと我に返った男は、懐から取り出した何かを地面に投げつける。
それは煙玉で、辺りは一瞬にして濃密な煙幕に覆われた。
視覚を遮られた光秀は目を閉じて集中し、逃げる相手の気を探りながら追う。
しかし、すんでのところで振り切られてしまった。
(あの男は一体何者だ?何やら妙な事を言っていた。かなり腕のたつ忍びのようだが)
手がかりを求め、割れた煙玉の残骸に目を向けると、その側に何か落ちている。
あの男が落としたのだろうか。
拾い上げてみると、それは小さな帳面のようだった。
ムラなく真っ白でなめらかすぎる紙、
そして筆で書けるとは思えないほど精密で細かな文字。
(何だこれは、こんな物は見たことがない)
光秀は強烈な違和感を感じた。
そして、その違和感は名無し、そして先ほどの男に感じたものにどこか通じる。
(これは役立つかもしれない)
帳面を懐にしまいこみ、光秀は再び名無しを探しに行った。
やがて、予想通りに名無しが姿を見せた。
城下を歩き回っていくつかの用事を済ませていく彼女を、光秀は尾行して観察する。
途中で名無しは突然、転倒した。
光秀が思わず駆け寄ると、どうやら草履の鼻緒が切れた様子。
(どれ、助けてやるか)
この機に、とうとう直接話しかけてみることにした。
手ぬぐいを裂き、意外とテキパキ応急処置をし始める名無しに
「ほう、なかなか上手いもんだな」
光秀がそう声をかけてみると、
「あ!…明智光秀……さん!」
彼女は飛び上がりそうなほどに驚く。