第34章 天女のノート ーお狐さまと未来から来た天然姫ー 【光秀】
光秀は後をつけて店に入り、様子を観察する。
名無しは時おり店主に質問しながら熱心に反物を選び、いくつか購入した。
店を出てからも引き続き尾行を続けると、名無しは大事そうに反物を抱えながら、ぐるぐると城下町を歩き回っている。
ただそれだけなのに何と楽しそうなのか。
並ぶ建物や店の商品、行き交う人々など、城下の風景ひとつひとつをキョロキョロと見回している。
キラキラと目を輝かせ、
頬を紅潮させて、
まるで見るもの全てが新鮮といった、そんな様子。
光秀はそれを不思議に思い、違和感を感じた。
幾日か潜入を続け、何度か姿を見せた名無しを尾行していても同じで、光秀の中の違和感は強くなっていく。
妙に楽しそうなだけではなく、姫という立場にもかかわらず警戒心が薄すぎる。
隙だらけで危なっかしくてたまらない。
実際、尾行している間に何度か名無しを狙う者の気配を察知した。
襲われれば簡単に攫われてしまうだろう。
横取りされては厄介だと、光秀はその男たちを未然に退治した。
捕らえて彼らを厳しく詰問してみると、名無しは上杉謙信の寵姫だから狙ったと言う。
(あの間抜けが上杉謙信の寵姫?…)
とてもそうは思えないが、その後も狙う輩は何度かあらわれ、光秀は撃退し続けた。
自分も輩と同じように名無しを攫おうとしている立場なのに、なぜか逆に彼女を護っている。
そんな奇妙な状況になっていて、光秀は自分自身にも違和感を覚え始めていた。
さっさと名無しを安土へ連れ去り、任務を終えてしまえばいいのに。
それは赤子の手をひねるが如く容易いことなのに、まだその気にならない。
どういう訳か、生き生きとした彼女をまだ見ていたいと思っていた。
(……なぜだ?)
自らに問いかけてもその答えは出ず、むず痒いような何とも落ち着かない心地になる。
(あの小娘の正体を暴いてやれば)
きっと、あまりに謎だらけの名無しに興味をひかれているのだろう。
自分の手で謎を突き止めれば気が済むのかもしれない。
光秀は名無しに接触することにした。