第34章 天女のノート ーお狐さまと未来から来た天然姫ー 【光秀】
******彼目線(光秀視点)******
数日前
(何と酔狂なことを…)
信長から下された命に光秀は心底そう思った。
その命とは、本能寺で信長を助けた娘の行方を追い、連れ戻すというもの。
(くだらぬ。到底、この俺が受ける任務ではない、見くびられたものだ)
「……せっかくですが、そのような大役、俺が仰せつかるのはいささか荷が重すぎるかと」
「茶化すな、光秀。あの娘は必ずや織田軍に幸運と勝利をもたらす存在になる。よいな?」
(一体何を考えておられるのか)
命を救われたとはいえ、あんな小娘を験担ぎで側に置いておきたいとは、正気の沙汰とは思えなかった。
「―――御意」
いつも通りに取り繕って慇懃に一礼すると、
「ゆっくりして来い、光秀。療養も兼ねてな」
(ゆっくり…?療養…?)
信長からまたもや不可解な言葉を投げかけられ、光秀は釈然としないまま天主を後にした。
光秀にとって娘一人の行方を突きとめるなど造作もなかったが、厄介なことにその居所は最大の敵・上杉謙信の居城である春日山城。
近ごろ突然あらわれたという上杉家ゆかりの姫の噂があり、外見的特徴が一致していた。
(名無しというあの娘、まさか上杉の姫だったとは)
意外な素性に次々と疑問が湧く。
(なぜあの時、本能寺にいた?信長様暗殺の企てに上杉武田が絡んでいたのか?じゃあなぜ助けた?なぜ逃げ去った…?)
あの挙動不審な言動といい奇妙な点だらけで、どうやら単純な話ではないらしい。
(こういうことか)
それならば信長がわざわざ光秀に命じたことに合点がいく。
それから光秀は町人に扮して越後に潜入し、聞き込みを始めた。
噂通り、名無しは突然あらわれ春日山城に住まうようになったという。
上杉ゆかりの姫ということ以外、その出自はいくら調べても誰にもわからない。
姫でありながら何故か針子をしており、評判はなかなか良い。
よく買い出しに来ていると聞いて反物屋を張っていると、名無しはノコノコやってきた。