第6章 デートの練習
「おせぇよ。もっと早く走れねぇの?」
「待ってよお兄ちゃん」
――お兄ちゃん? 私、お兄ちゃんがいた?
その男の子の姿はぼんやりしているけど、背は私より随分大きい。色素が薄い短い髪が太陽の光に反射して眩しくて目を細める。
顔は……逆光だからかよく見えない。だけど私の手をひいて「早くしねぇと飯、冷めんぞ」って言ったその手からは陽光のような温もりを感じた。
そこで映像はプツンと切れて、瞼の裏には何も映らなくなる。
ホームに新たに電車が入り込む構内のアナウンスが流れ、駅にいる人達の気配を感じ、ゆっくりと目を開けた。
おもむろに額を上げると、五条先生の心配そうな顔とガチンコした。
「大丈夫?」
「ごめん。もう大丈夫」
「真っ暗って言って僕に寄りかかってたけど」
「うん。立ちくらみかな?」
「まだ顔色悪いし、もう少しこうしてれば?」
私を抱きしめながら彼が言う。申し訳ないなと思ったけど、いいよって目をしてたから額を預けてもう少し甘えさせてもらうことにした。
体ごと寄りかかると、背中に手が回り崩れ落ちないようにぎゅっと優しく抱きしめてくれる。
こんな駅のホームで、周りからしたら何いちゃついてるんだと思われてるかもしれない。だけどもう少しこうしていたい……。