第35章 約束
ああ、どこかで聞いたことある言葉だと思ったら、あの花火大会の日に射的をおねだりした時に「祭りの神だ」って宇髄さんが言っていたのを思い出す。
何年も昔の話のようだ。
あの浴衣のことも突然昨日切り出されて驚いたけど、まだまだ最近のこと。
あの日、射的で取ってくれた玩具の指輪はちゃんと嵌る指がないので外出時に紐に通して首にかけている。
これが宇髄さんからの最後の贈り物。
肌身離さず付けている形見の首飾りは胸元の見える位置に。
そしてその指輪は長めにして誰にも見えない位置にいつもいてくれる。
つい先ほどまであまりにひどい八つ当たり発言に申し訳なさから居心地が悪かったのに、彼の一言で一喜一憂するのをもうやめにしたい。
わたしの顔色を伺うような善逸の視線に気付き、慌てて笑顔を向けるが、きっと善逸は分かっているだろう。
人の心模様が音で聴こえてしまうのだ。
頭を振って考えを切り替えれば、御乱心の宇髄さんに目を向けた。
祭りの神だとドヤ顔で言っているところを見れば、こうやって自信に満ち溢れた彼が好きだし、子どもみたいな振る舞いをする彼も好きだ。
どんな彼も見てきたし、愛おしい存在には変わりない。
すると、突然伊之助が宇髄さんに向かって「俺は山の王だ」と自己紹介し出したので空気が若干止まった。
宇髄さんはボケてるつもりはなく、本気だと思うけど、周りから見ればボケにボケをぶっ込んで「………」な状態なのは間違いない。
少なくともわたしと善逸だけは同じ感性でこの二人を見ている。
「何言ってるんだ、お前。気持ち悪いやつだな」と"どの口が言うのだろう?"と言うとんでもないことを平然と言う宇髄さんに若干申し訳なさが募る。
愛おしいのは間違いないが、彼の子どもっぽいところが万人受けするとも思っていないので、特に善逸の目は見ることができない。
しかし、もちろんそんなことなどお構いなしの宇髄さん。
花街までの道のりの途中で藤の家があるとのことでそこで準備を整えるからと言って走り出そうとした瞬間、再び私の体を引き寄せて抱えた。
「え、ええ?!」
「ついてこい。」
「ちょっ…!わ、私も走れますーー!!!」
どんどん三人を引き離して走る宇髄さんにされるがまま。
私は彼に抱えられて目的地まで一度も降ろしてもらうことは叶わなかった。