第35章 約束
──遊郭だよ
そう聞いた瞬間、嫌な汗が背中を伝った。
そこはいま潜入調査であの六人がいるところだったから。
何かあったと言うこと?
彼らに何か…?
「どういうことですか、師匠。」
「あー、話はコイツらとするからとにかくお前は帰れ。」
「嫌です。早く事情を教えてください。」
「はぁ?!帰れっつってんの、聞こえねぇのか?!」
「継子である私を差し置いてアオイちゃんやら彼らを連れ出す理由は何でしょうか。納得いく理由があるのであれば師匠こそ今此処ではっきり仰ってください。」
絶対に理由なんてない。
それは体に残った前の宇髄さんの記憶でしょう?
あなた自身も困惑してる筈。
案の定、顔を引き攣らせて目線を逸らした宇髄さんに私はひとつ息を吐いた。
「…ないならば私も行きます。」
「ちょ、ちょっ、と待て!り、理由はねぇが、お前は残れ!」
「理由になってないので行きます。」
「て、てめぇ!!上官命令だぞ?!」
「意味がわかりません。さ、行きましょう。」
宇髄さんを無視して私たちの様子をじっと見守ってくれていた炭治郎達と向き合った。
有無を言わさない私の態度に明らかに苛々している様子の彼だけど、そんなことに怯んでいたら彼の継子なんて務まらない。
しかし、私の腰を引き寄せると今度は冷静さを取り戻した声で耳元で「ほの花、命令だ」と
呟くものだから。
ドクンと心臓が跳ねた。
落ち着け…。宇髄さんに聴こえてしまう。
落ち着け
落ち着け
「……師匠は私のことを信用していないんですね…?」
コロコロと対応を変えて揺さぶりをかけるつもりならば私だって負けやしない。
そもそも私に失うものなどないのだ。
自分で思いっきり足をつねってやると生理的に涙が出てくる。
本当はこんな風に使うのは嫌だけど、背に腹はかえられぬと言うものだ。
私は出てきた涙を武器に彼に振り返った。
「…私だって…っ、師匠、のっ…役に立ちたいのに…、私のことを信用してないから…行かせてくれない、んですよね…?ッひっ、く…」
「は、え、ちょ、…お、おい…な、泣くことねぇだろ…?おい…ほの花。」
流石に継子に泣かれてしまえば炭治郎達の視線にも居た堪れなくなったのか天を見上げてため息を吐いた彼が目に入った。