第35章 約束
──命令だ
そう言えば俺の言うことは何でも聞くのだと思っていた。
命令と言って俺に抱かれるような女だからだ。
でも、どうやらそうではないらしい。
竈門達三人を連れて行くと決めた以上
ほの花に役目はない。
帰って家のことでもしていてくれたらそれで俺は安心できる。
任務に連れて行くことだけは選択肢に入っていないのだから。
それなのにほの花が涙を溜めてこちらを向いたことには驚きを隠せなかった。
いつもニコニコしているほの花なのに…まさか泣くほどのことだったか…?
キョトンとしてしまったのは数秒のことで、すぐにほの花を宥めなければ…と焦りが出てしまう。
「…な、泣くなって…。」
俺はコイツに振り回される星の下にでも生まれているのか?
笑顔を見れば嬉しくてたまらないし、泣き顔を見れば笑顔にしてやろうと必死になる自分がいる。
背中を撫でて呼吸を落ち着かせてやろうとしてみるが、その瞳は決意に満ちていてとてもじゃないが説得してどうこうできるような感じには見えない。
そして俺のことを下から睨みつけながら小声でとんでもないことを言い出した。
「…もし、私を置いて行こうとしたら師匠に強姦されたって此処で喚き散らします。」
「な、は…、は?!あ!あれは合意だろ?!」
「命令されたんです。あー、つらかったです〜。そうですか。じゃあ師匠は継子に手を出した最低な…「あああああ、わかった!分かったから!!!」
既にその目に涙はない。
にこーっと口角を上げるほの花にため息を吐いた。
コイツ…最初から俺を脅すつもりだったのかよ。
まさか抱かれたのも…そのため…?
いや、それは流石にないか。
しかしながら、自分で蒸し返すなと言っておきながら今更蒸し返したかと思えばとんでもない切り札にしやがった。
自分では嫁達に言うなと言っておきながら、かたやこちらを脅す材料にするとは随分と狡猾な女だ。
いや、俺も"合意だろ"と言ったものの、合意ではないだろ?
師匠としての権力を使ってほの花を無理矢理手篭めにしたのは否めない。
どちらにせよ、今の俺は万事休すということで間違いない。