第35章 約束
「…縦縞しじらの…?」
「ええ、そうです。ご自身が選ばれなさそうな物をと言われてましたね。あと宇髄さんは男前なのでそれを引き立たせるなら少し大人しい柄のがいいとも仰ってました。」
ならば何故アイツは知らないフリをした。
これのことだとは思わなかったのか?
だが、分からなかったのならばどんな浴衣なのか聞いてくるだろう。
しかし、アイツは聞いてこなかった。
どれのことなのかわかっていたかのように。
「…そう、か。」
「??ほの花さんから受け取らなかったのですか?」
「いや…受け取った。悪ぃな。どういう経緯で買ったのか気になってよ。アイツ言わねぇからよ。」
「ああ!うふふ…、奥ゆかしい方ですもんね。宇髄様のような豪快な方にはお似合いです。」
お似合い…?
ひょっとして二人で来たことあるから誤解してんのか?
女将の言い方ではまるで俺とほの花が恋仲か夫婦のような口振り。
「花火大会もお二人で行かれたんですよね?思い出話も聞かせて欲しいのでまたお二人でいらしてください。主人も会いたがってましたよ。」
「ああ…そう、だな。」
花火大会…?
花火、大会?
いや、わかる。それは此処らで毎年やる夏の風物詩。
今年もやったのだろうが、何故俺とほの花は二人で行くことになっているのだ?
嫁達は?
正宗達は?
順序がおかしい。
共に行くならば最初に出てくるのは嫁達のはず。
それなのに女将の口からはほの花の話ばかり。これは完全に誤解している証拠。
でも、ふと思い浮かぶのはまた口元だけ笑っている女の姿。
夜な夜な人の夢に出てきては笑いかけてくる女。
お前は一体誰なんだ。
──ズキン
頭が痛い。
何なんだ。
何かがおかしい。
俺に記憶がないのはわかってる。
でも、一番大事なことを忘れているんじゃないか。
それが…あの女の正体。
お前は一体誰なんだ。
酷い頭痛のため一旦屋敷に戻ると部屋で小一時間休む羽目になった。
うつらうつらとした意識の中、やはりあの女が俺の方を見てにこやかに微笑んでいた。
でも
手を伸ばしても
絶対に届かない
お前は一体誰なんだ?