第35章 約束
翌日、俺は朝餉を食べると店が始まる頃に呉服屋に向かった。
昼頃にはお館様のところに行くと言うほの花と鉢合わせないように。
その後、すぐに女の隊員を見繕って遊郭に向かわねぇといけない。
本来ならば朝からそうするのが望ましいだろうが、どうしても知りたかった。
あの浴衣の出所を。
曖昧に微笑んだほの花のその真意を。
「あら、宇髄様!こんにちは。お久しぶりですね。」
店の前まで行くと、外で掃き掃除をしていた女将が出迎えてくれた。すっかり秋の装いになっていて、季節の移り変わりを感じた。
浴衣にとらわれていたので夏の頭だったが、そもそも俺の頭の中は長い眠りについていたかのように曖昧な記憶が散乱していてとっ散らかっている。
"お久しぶりです"と言われて、やはり久しぶりなのだと再確認する。こうやって周りの情報から少しずつ自分という物を形成していく感覚はいつまで続くのだろうか。
いい加減やめてほしい。
「ああ、しばらく。」
「今日はお一人ですか?」
「ああ、女将達に聞きたいことがあってな。」
お一人ですか?というのは嫁達を連れてきたことがあるからだろう。
俺の言葉に掃除の手を止めて向き合ってくれた女将。
「…夏頃によ、俺は浴衣を買ったか?」
「宇髄様がですか?ええ。買われましたよ。確か…ほの花さんという方に。」
「……は?」
返ってきたのは予想外の答え。
俺は自分の浴衣を買ったのか聞いたのに蓋を開けてみれば買ったのは自分のものではなく……
「…ほの花、の?」
「ええ。一緒に買いに来て下さいましたよね?お元気ですか?ほの花さんもすっかりお姿を拝見しませんが…」
「あ、ああ…元気だ、元気に…してる。」
何故ほの花の浴衣を?
いや、別に買ってやること自体は問題ない。
アイツは意味がわからないほど甘えてこない女だし、買ってやったというなら"当時の俺よくやった!"と褒めてやりたいくらいだ。
「…あ!!そういえば気に入りましたか?」
「…気に入った?何のことだ?」
「あら、受け取ってないんですか?ほの花さんが御礼にって一生懸命に選んでましたよ。宇髄様の浴衣を。」
なぁ、ほの花。
何でそんなことを隠す必要があった?
俺にはお前のことがわからない。