第35章 約束
やはりほの花には黙っていよう。
言えばアイツのことだ。何としてもついてこようとするだろう。
妙に責任感の強いところは客観的に見れば素晴らしい長所だと言えるが、俺からしたら邪魔なだけだ。
ほの花があれほど嫁達が可哀想だと言って俺のことを制止した意味が今更ながらに理解できる。
しかし、悟られる前に話題を変えるために振った浴衣の話で初めてほの花が何かを隠したように感じた。
いつもは何だかんだでアイツの中で答えや理由がしっかりあって、そこに違和感を感じながら納得をせざるを得なかったというのに。
"さぁ?私には分かりかねます"
そう言った時の顔は曖昧に笑うだけ。
それ以上何も言わない。
突っ込めば何かわかるかもしれないと初めて取っ掛かりを見つけた気がした。
どうやって切り込もうかと思っていたらほの花が「お茶を淹れます」と言って立ち上がってしまったのでその話は続かなかった。
でも、ひょっとしたら馴染みの呉服屋で買ったのであればそこの店主が知っているかもしれない。
見たことのない浴衣。
自分で買った覚えがない。
嫁達に聞いても知らないと言った。
でも、それは真新しくて着ていたとしても数回だろう。
箪笥の奥底に封印してあるかのように眠っていたその浴衣。
誰がそこに入れたのか?
真新しいからほの花は知っているかと思った。
嫁達には物を見せて「これ見たことあるか?」と聞いたのに、ほの花は物を見せずしてどれのことなのかわかっているような口振りだった。
(……お前が、くれたのか?)
それは希望的観測。
聞くまでは「嫁達も知らないのだから知らないだろうな」と思っていたことも、何かを隠したほの花に突破口を見出したのだ。
だが、もしほの花が贈ってくれたものならば何故正直に言わないのだ。
謎は膨らむばかりだが、その謎を解決する糸口が見つかっただけでも俺としては収穫があったと言える。
「そうか。記憶がない時にもらったんじゃねぇかと思ったが、知らねぇんじゃ仕方ないな」
部屋の隅で茶を淹れているほの花がまた曖昧な笑みをこちらに向けた。