第35章 約束
「ほの花、明日はどこか行くのか?」
「え?明日ですか?」
あの抱かれた日以来宇髄さんは必要最低限の会話くらいしかしていなかったのに、久しぶりに予定を聞かれた気がする。
普通の関係に戻れるのならばそれほど喜ばしいことはない。
私たちはやはり師匠と継子。
それならばずっと近くに居られるから。
「午後から産屋敷様のところへ行ってきます。」
「そうか。お館様は最近どうなんだ?」
「良くは…ないです。悪くなっていっていますが今は少し落ち着いています。ただ…これ以上良くなることはないかな、と。」
こうやって産屋敷様の話をするのも久しぶりのこと。
柱ならば特に産屋敷様の体のことは気になるだろう。私よりも付き合いは長いわけだし、少しでも良くなってほしいと思うはずだ。
宇髄さんも私の言葉を受けて少しだけ顔が曇った。
「…少しでも楽になるように私も頑張ります。」
「…ん。頼むわ。そこは俺全然わかんねぇからよ。」
そう言うと味噌汁を啜り出してしまったため、会話は終わってしまったけど、突然何故明日の予定を聞いてきたのだろう?
先日からの私たちの関係性の中ではそんなこと聞いてこなかったのに。
「…明日がどうかしましたか?」
「いや?聞いてみただけだ。大した意図はねぇよ。」
「そう、ですか?それならいいのですが…」
「あー、そういやお前に聞きたいことがあったんだった。」
それっきり宇髄さんは明日のことについて何も言わなかった。
その代わり急に話題を変えてきたので余計に気になったが、今度はその変えられた話題に気を揉むことになる。
「何でしょうか?」
「俺の部屋にさ、見たことねぇ浴衣があったんだけど知らねぇか?アイツらに前聞いても知らないって言うんだわ。」
「…浴衣…?」
「ああ、品の良い浴衣なんだけどよ…買った覚えがないんだわ。」
それは…恐らく私が彼に渡した浴衣。
どうすべきか。
取り繕うべきか?
そうした方がいいに決まってる。
だけど、そんなところまで言い訳を考えていなかったので、今作った苦しい言い訳なんて大した役に立たないだろう。
私は宇髄さんの目を見て「…さぁ?私には分かりかねます」と伝えることしかできなかった。
それ以上もそれ以下の答えもない。
嘘が……つらい。