第35章 約束
屋根の上を伝って屋敷に戻っている最中も考えるのはアイツのこと。
ほの花と死んだ恋人とのまぐわいを考えるだけでモヤモヤとドス黒い感情が頭を渦巻くと言うのに、遊郭でのことを考えたら今でさえ拳を握りしめる始末。
駄目だ…
アイツは行かせられねェ。
絶対に行かせるか。
他の男にアイツの裸を見せたくない。
善がる顔を見せたくない。
誰にもアイツを触らせたくない。
しかし…となると誰を行かせるか。
生憎、女の隊員とそこまで親しい奴はいない。
柱である胡蝶と甘露寺くらいか。
だが、アイツらを駆り出すわけには行かない。
となると…胡蝶のとこに何人かちんまりした女がいたな…。
まぁ、明日ちょろっと借りればいいか。
継子じゃなけりゃ胡蝶の許可を取る必要もねぇし、任務が優先だ。
俺からしてみればほの花を行かせるより遥かにマシだが、周りから見たら絶対にキョトンとされる案件だろうな。
それでもいい。
アイツだけは…絶対に行かせない。
俺はその決意のまま屋敷へと降り立つと、ふわりと美味しそうな匂いがした。
ほの花が夕餉の支度をしてくれているのだろう。
こんなことが一生続けばいいのに…と願っている男が此処にいるなんて思ってもいないだろうな。
嫁の留守中に継子を手篭めにして、挙句の果てにそいつとの二人の生活を楽しんでるなんざ最低野郎だ。
嫁達が危ない目に遭っているかもしれないと言うのに。本当に最低だ。
だけど…どうしやぁいいんだ。俺はもうアイツでしか勃つ気がしねぇ。
遊郭で詩乃に勃たないくらいは仕方ない。
でも、嫁に勃たないは死活問題だ。
悶々として頭を抱えながらため息を吐くと、「師匠〜?」と縁側の襖が開いた。
そこにいたのは前掛けをしたほの花の姿。
「どうしたんですか?気配がしたのにちっとも入っていらっしゃらないから…。」
どうやら庭側の部屋にいたようで俺の気配が分かって、待っていてくれたようだった。
その手にはお鍋が握られていていい匂いがそこに立ち込めた。
「…いや、考え事をしていただけだ。飯作ってくれてありがとな。」
「いえいえ。もう召し上がりますか?」
「ああ。食う食う。」
なぁ、ほの花?
俺は間違ってるよな。お前と夫婦になりたいなんて思うことは。