第35章 約束
──吉原 遊廓
(…来ない。…何故だ?)
昼間に定期連絡を取っていたと言うのに雛鶴もまきをも須磨も連絡が取れなくなった。
それに準じて正宗達も。
雛鶴達は優秀なくのいちだ。
余程のことがない限りおいそれとやられることはないはず。
しかも、それぞれ正宗達に護衛につかせたのだ。
奴らも詳しくは知らないが、ほの花の護衛を務めていたくらいだ。
それ相応に戦えなければ護衛は務まらない。
……となれば…、やはりこの遊郭に巣食う鬼は…十二鬼月なのだろう。
「…チッ…、無事だといいが…とにかく一度帰って出直すしかねぇ。」
今すぐ助けに行きたいのは山々だが、尻尾を出さない鬼のせいで動きにくい。
今行って、逆に殺される場合だってある。
とにかく冷静になれ。
冷静にならなければ勝機は見出せない。
遊郭の屋根の上からもう一度あたりを見渡すと一旦、屋敷に戻ることにした。
アイツらを救うためにはもう一度女の誰かを潜入させなければならない。
さて、誰に行かせるか…。
女と聞いて真っ先に頭に浮かぶのは絶賛引き摺り中のほの花。
一度ヤっちまってからどうも気まずい空気が流れている。ほの花自身が無かったことにしようとしてくれて、いつも通り振る舞ってくれているのは分かる。
でも、それが一番息苦しい原因だ。
無かったことにしたくないと言いたいのに、これ以上の関係性の悪化を危惧して言えないド派手に腰抜けの俺。
本当ならば今すぐに継子を辞める!と言って家を出て行かれても仕方がないことをした。
そんな俺のそばにまだいてくれる健気な自分の弟子をこれ以上追い詰めたく無かった。
追い詰めればアイツはいなくなる。
絶対に。
それだけは駄目だ。
全俺がそう言っている。
いなくなって欲しくない。
だから…必然的にほの花の選択肢はなくなる。
本来ならば一番の側近である継子のほの花に行ってもらうのが安心だ。
アイツの実力はもう分かりきっているし、師匠である俺の思うように動いてくれる唯一の存在。
だが…潜入させると言うことは男とのそう言う場に出るということだ。
アイツの外見はそれだけで魅力的なのに遊女となり着飾ったアイツはどれほど美しいか。
考えなくても分かってしまう。