第35章 約束
頭の痛みはすぐに引いたのに結局、夢によく出てくるあの女のことは分からない。
だが今はそんなことはどうでもいい。
それよりも頭の中は先ほど女将から聞いたことで埋め尽くされている。
立ち上がり、箪笥の中に仕舞い込んでいたあの浴衣をもう一度出して見てみる。
(……ほの花が、くれた…?俺に…?)
自分では選ばない柄だとは思っていた。
だから記憶がない時に買った物だとしても自分が買ったのではないのではないか?とすぐに察しがついた。
「……ほの花が、俺に…?」
声に出して見ると現実味が帯びて、手に持っていたその浴衣を見て顔がにやけるのがわかった。
その時の俺は…ひょっとしたら喜ばなかったのか?
普段選ばない柄だし、だから…ほの花があんなふうに隠したのかもしれない。
事実はわからないが、もしそうならば…その時の俺をド派手にぶった斬ってやりてぇ。
今の俺ならアイツからもらって嬉しくないわけがない。
もう一度、今これを贈ってくれたのなら絶対に心の底から喜ぶ。
これを着て…アイツと二人で行ったのか…?
花火大会に。
俺はアイツからもらったこれを着て、ほの花は俺が贈った浴衣を着て…?
女将が言っていたことが事実ならば、それはまるで…
「…恋仲みてぇ…。」
花火大会に行くくらいだったらそんなことは思わない。お互いの浴衣を贈りあって花火大会に二人で行くということは逢瀬のようだから。
事情はわからないが、花火大会二人で行ったことを隠したかったのか?
それとも浴衣を渡したのが自分だということを隠したかったのか?
どちらにせよ、今日帰ったらもう一度聞いてみよう。そうすれば不透明なことがはっきりしてくる気がした。
納得しようとしていた。
記憶がないことを。
でも、やはり無理だ。
俺の中の俺が「諦めるな」と言ってる気がした。このまま有耶無耶にしてしまえば、二度とその記憶は戻らない。
真実を知りたい。
ただそれだけだ。
そのためには…まずは遊郭の件を片付けなければならない。
俺は屋敷を出ると蝶屋敷に向かった。
俺は俺の記憶と決着をつける。
どんな過去でも受け入れてやる。
俺は俺を取り戻したい。