第29章 停戦協定※
ほの花の腰を掴んだまま瑠璃を見るが、呆れたような感情を携え鋭利な刃物のような視線で睨みつけられると、再び口を開いた。
「どうせ馬鹿力で押さえつけたんでしょ。腕とか腰に痕残ってたわよ。」
「…は…?え、ま、マジで?」
ほら、やっぱり。
そんなことだろうと思った。嫉妬で見境無くなって、頭を冷やすために居間に来たのだろうが、その時ほの花には着物をかけてあげるだけしかしてやってなかった。
自分のことで頭がいっぱいだった証拠だ。
「嫉妬するのは勝手だけど、あんたの嫉妬押し付けて傷つけたら他の男に取られても文句言えないわよ。」
「る、瑠璃さん…!」
「あんたは黙ってなさい。私は今、天元と話してるの。」
多分、天元を庇おうと口を挟んできたほの花だが、ビシッとそう言えば肩を震わせて口を噤んだ。
「男と女じゃ力の差があるのよ。自分の女だからって何しても良いって思わないことね。ほの花がフラれるんじゃなくて、あんたがフラれて失うわよ?」
「…そうだな。確かに俺が悪いわ。」
「そうね。少なくとも…私がこの子の立場なら天元なんてもう御免だわ。嫁に戻る前にあんたの本性がわかってよかったって思うくらい。…と言うわけでそんな男いらないからほの花にあげるわ。」
言い終わるや否や、今度は二人して同じ顔をして私を見てくるので、こちらが視線を逸らす。
痴話喧嘩なんて本当に面倒だわ。
面倒だけど…、今回は自分も悪かったわけだからこれくらいのお詫びは仕方ない。
「…え?る、瑠璃さん?」
「はぁー…もう散歩面倒になったから部屋に戻って寝るわ。あ、あとで薬持ってきてよね。不味いけど。」
再び、部屋までの道を蜻蛉返りして行くと後ろから「ありがとうございます…!」とほの花の泣きそうな声が聴こえてきた。
その瞬間、何故か凄く嬉しくて口元がにやけるのを止められなかった。
大嫌いな女だった。
でも、本当はあの子が嫌いなんじゃない。
忍のしがらみやしきたりに翻弄されて、融通が利かなくなっていた自分自身が嫌いだったのだ。
だから優しくて天真爛漫な自分とは正反対なほの花が天元に愛されていたことが妬ましかった。
もう良いじゃないか。
もう止めよう。
私も自由になればいいだけのことだ。