第29章 停戦協定※
赤黒く付いていた所有印は今し方付けたばかりでしょ?という濃いものから既に薄くなってしまっているものまで残されている。
日常的に自分の愛を押しつけていたのだろう。
本当に天元の嫉妬深さに笑いが込み上げる。
知らない一面を知ることは少し前の私なら苛ついて仕方ないだろうが、今は少しだけ面白いとすら感じる。
「…肌が白いから白粉はそこまで要らないわね。」
「はぁ、そうなんですか?」
「あんた、本当に化粧っ気ないけど、まさかやり方分からないの?」
自分には似合わないと仕切りにいってくるが、自分のことを理解していないほの花だ。私が広げている化粧品の数々を興味深そうに見つめている。
「え、あー…全く分からないわけではないんですけど、簡単にしか出来ないんです。身だしなみ程度のお化粧は母から習いました。」
「本当に少しだけじゃない。殆どしてないに等しいわ。」
ほの花は家にいる時もちゃんと化粧をしている。しかし、それは本人の証言通り"身だしなみ"だ。
眉を整えて少しだけ白粉を叩いて、頬紅を血色がよく見える程度に薄く塗っているだけ。
私は持っている化粧品で目元周りに色を入れて陰影をつけると目の際に瞼墨を入れる。
元々大きくて、西洋人形のような目をしているのでそれを入れるだけで物凄く妖艶になった。
それに気を良くした私はまるで絵を描くようにほの花の顔の美しさを引き出すように化粧を施していく。
毎回これだけする必要はないけど、化粧っ気は無さすぎる。
せめてあの三人がしてるくらいは化粧をしてもいいだろう。
最後に私に買ってくれた紅を取り出すと小指でそれを取る。
「…え、あの、それは…いくらなんでも似合わない、かと…!瑠璃さんなら似合うと思いますけど…私は…!」
「黙ってなさい。」
「…はい。」
確かにほの花の雰囲気はどちらかといえば"可愛らしい""可憐"だと言える。
でも、化粧をすれば途端に妖艶な色気を醸し出す。
ほの花が買ってくれた紅は私の好み。
だから彼女がするには少し艶が過ぎるかと思ったが、どんどん仕上がっていくにつれて、考えが変わった。
最後にそれを挿せば、そこにいたのは誰?と思うほどの色気を纏った彼女。
人知れずほくそ笑むと慌てふためく天元を思い浮かべて笑いが込み上げた。