第3章 捻れた現実
がやがやと行き交う影の間を縫うように、ふたりに連れられ街を歩く。
初めて目にするものすべてに、ヴァリスは瞳を煌めかせた。
紺碧色の瞳を温かな光にゆらめかせる。
その光を優しい眼差しで眺められながら、ラムリに導かれある店へと入った。
「洋菓子店 スピカ」。
古びて、少しばかり錆びた金文字。
カララン……と扉につけられた大ぶりの鈴が、密やかに揺れた。
「いらっしゃ………、」
奥の部屋から出てきた店主が、三人のおもてを見て顔色を変える。
明らかに肩を強張らせつつも、瞬時に笑みを貼り付けた。
「何をお探しで?」
「フルーツタルトをホールで」
ラムリの一言に、その眉が訝しげに寄る。それでも笑んだまま頷くと。
「へい、………毎度」
店の奥へと消えていく。
既に店内にいた他の客達も、手で口元を隠して口々に囁き合いはじめた。
「おい……なんであいつらが、」
「あぁ、………よくものうのうと来れるよな」
「あの女があいつらの主人だろ? 見ろよ、あの水銀色の髪……!」
「っ………!」
吐息を封じたラムリが、彼らのほうへ歩みかけるも、
ヴァリスその人に止められてしまう。
「やめて、ラムリ。………駄目よ」
「っ……でも………っ」
「ラムリ」
すこし咎めるように、名前を呼ばれただけ。
それなのに、彼らを正そうとする意思は形を代えて。
「っ……ラジャーです」
唇を噛みしめながらも従う彼。
そんな彼に、ヴァリスは密やかに笑いかける。
「ありがとう」
にこりと微笑いかけると、彼らの声により棘が宿った。
「随分お優しい『主様』だな」
「あぁ、まるで偽善者だ」
「でもあの女がもっと早く、この世界に来ていたら………、」
「あいつらの不始末は、あの女の不始末だろうに」
憎しみの篭った眼が、一斉に彼女へと向けられる。
空気さえもひりつく中、ヴァリスは唇をひらいた。