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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第2章 主人として


そっと、丁寧な所作でサラダボウルを置くと、こちらへと歩み寄ってきた。



「おはよう」

笑いかけると、ほっとしたように解ける彼の瞳。



「? ロノ?」



「良かった……。昨日はぐったりしてたから心配したぜ」

そう言って、こちらへと手を伸ばしてくる。



ぽん、ぽん、と頭に軽く手を打ち付けると、彼女はすこしばかり瞳をゆらめかせた。

遠いとおい、かなたの記憶を追っているような、儚く哀しげな瞳。



「主様?」

ロノの戸惑う声に、はっとその瞳を覆っていた混沌を消し去る。



「何でもないの」

そう言って微笑うおもてに再度彼の指が伸ばされ………。



「主様、具合でも悪いんですか?」

そう言って額に掌が重ねられる。

黒いフィンガーレスグローブ越しに伝う彼の体温に、思わずその身を強張らせていると。



「ロノくん、主様に失礼ですよ」

見かねたベリアンがやんわりと咎めると、

「すっ、すいませんベリアンさん」と慌てて手を引っ込める。



「主様、すみませんでした」

やや急いた様子で謝った時には、その両目から切なげなひかりは消えていた。



「ううん、気にしないで」

そっと微笑む彼女。その瞳は常の彼女に戻っていて、先刻の影さえ消し去っていた。



「主様、………こちらへ」

フルーレの先導で、ダイニングテーブルへと近づく静かな靴の音。



その表情は柔く穏やかで、長い睫に縁取られた紺碧色の瞳は温かさをはらんでいた。
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