第4章 繋がり
「ねえ」
ぽつりと落とされた低い声。
それだけで、老術師の背筋に冷たい蛇が這い上がったかのような戦慄が走った。老人が息を呑む暇すら与えず、五条はポケットから片手を出し、相手の肩へポンと軽く手を乗せた。
「言っとくけどさ」
まるで親しい友人に世間話でもするような軽さ。
けれど、その手に込められた果てしない「質量」と、無限の底から湧き出るような圧倒的な圧迫感に、京都校の術師は足の膝がガタガタと震え出すのを抑えられなかった。
「あんたら上層部や他家が『見たい見たい』って五月蠅いから、こうしてわざわざ僕の貴重な時間を割いて、京都まで香久夜を見せに来てあげたんだよ?」
「……つ、五条殿……」
「勘違いしないでね」
五条は老術師の顔を覗き込むようにして、ニッと口角を上げた。
けれど、その瞳には一切の光が宿っていない。世界を俯瞰する「最強」の冷徹さそのものだ。
「あの子は僕の教え子で、僕の管理下にある。……歩く特級呪物? 呪霊を太らせる餌? ふん、くだらないレッテル貼ってコソコソ探り入れてんじゃねえよ」
「っ……」
「もし僕の目の届かないところで、あの子に変な真似したり……余計な手出ししようとする奴がいたらさ」
五条はポンと乗せていた手をポンポンと二回、軽く叩いた。
それだけで、老術師の周囲の空間が一瞬歪み、肌を切り裂くような呪力がピリピリと空気を震わせる。
「上層部だろうが御三家だろうが……相手が誰であろうと、僕がまとめて『ぶっ飛ばす』から。……いいかい?」
「……そ、そんな態度、許されるとでも、思ってるのか…、!」
「わかったかって聞いてんだよ」
冷や汗をだらだらと流し、必死に頷く老術師の顔を確認すると、五条は何事もなかったかのようにぱっと手を離し、いつもの軽い外行きの笑顔に戻った。
「よしっ! 分かればオッケー! 今の脅し、みんなに伝えてよね〜?」
ひらひらと手を振りながら、五条は中庭で恵や香久夜たちがいる賑やかな輪の方へと歩き出す。
(『歩く天災』ね……。香久夜のその綺麗な力を、汚い大人たちの政治の道具になんてさせないよ)
背中で京都の重苦しい視線をあしらいながら、五条はサングラスを押し上げ、自分の庇護のもとで笑顔を取り戻した香久夜の姿を、愛おしそうに六眼に映したのだった。