第4章 繋がり
「京都、初めてでしょ?」
「はい」
「楽しみ?」
「……うん」
香久夜の顔が、ほんの少し明るくなる。
「京都って、お寺がいっぱいあるんですよね」
「あるある」
「八つ橋、食べてみたいな」
「よく知ってるね、お土産で買おうか」
「……自分でも、食べたい」
「……そうだね、じゃあ僕が買ってあげよう」
「ほんとですか?」
「うん。好きなの三つ選んでいいよ」
「三つ?」
「太っ腹でしょ、僕」
香久夜が嬉しそうに笑う。その横で、恵が冷ややかな声で小さく息を吐いた。あからさまに感情を削ぎ落とした、不機嫌なトーンだ。
「……先生」
「ん?」
「甘やかしすぎです」
「えー? いいじゃん。たまには」
「たまにじゃないだろ」
「恵も欲しい?」
「いらない」
「遠慮しちゃって」
「してない」
恵の素っ気ない態度に、香久夜は微かな一瞬だけ悲しそうな陰りを瞳に宿した。
『頼れ』と言ってくれたのは恵だった。昨日までは手をつないでくれたのに、今朝から一度も目が合わない。話しかけても拒絶するような短い返事ばかり。
(私、何か嫌なことしちゃったのかな……)
胸の奥がチクチクと痛む。けれど、なんとかその距離を埋めたくて、香久夜は勇気を出して恵に歩み寄った。
「恵くんも……八つ橋、食べる?」
香久夜が恵の顔を覗き込むようにして尋ねる。
だが恵は、香久夜が近づいた瞬間にビクッと肩を跳ねさせ、あからさまに一歩後ろへ身を引いた。
「……別に」
目すら合わせず、すげなく言い捨てる恵。
「あ……ごめん」
「……あー、いや。……食えるなら、なんでもいい」
香久夜の傷ついたような声にハッとした恵が、慌てて付け足すようにぼそりと呟く。けれどその態度はあまりにもぎこちなく、余計に二人の間の溝を深く際立たせていた。
五条はそんな不自然すぎる二人のやり取りを、包帯を巻いた目で見つめていた。
「はいはい。仲良し(?)なのは分かったから、そろそろ行くよー」
香久夜は、何も言わずに五条の元へと走っていった。