第4章 繋がり
「忘れ物ない?」
玄関先で、旅行鞄を肩にかけた五条が二人を見回した。
「ないです!」
香久夜が元気よく答える隣で、恵は香久夜とあからさまに距離を取る。一度も視線を合わせようとしないまま自分のリュックを持ち上げた。
「俺もないです」
「ほんと?」
「……先生、もう三回聞いてます」
「だって君たち信用ないんだもん」
「なんでだよ」
「特にちゃん」
「え?」
突然名前を出され驚く香久夜。
「今朝歯ブラシを冷蔵庫に入れかけてたでしょ」
「……あれは」
香久夜が少し考える。
「間違えました」
「間違えました、じゃないよ」
「ごめんなさい」
「素直〜」
五条が笑いながら、香久夜の頭をくしゃ、と軽く撫でる。
その瞬間、恵の眉間がピクリと跳ね上がった。視線だけは二人へ向けず、頑なに壁のポスターを睨みつけている。
今朝、熟睡する香久夜の体温に理性を狂わされ、欲望のまま触れてしまったあの感覚
——手のひらに残る柔らかさと熱が脳裏を焼き尽くし、恵は香久夜の顔を直視することすらできなかった。
(触ったんだ、俺は……あいつに……)
激しい自己嫌悪と罪悪感が胸を押し潰す。守ると言った口で、自分勝手な欲を向けた自分が許せない。だからこそ、触れないように、視界に入れないように、露骨なまでに距離を置くことしかできなかった。