第3章 香久夜の過去
ーー
夕食の準備をしているときだった。
が慣れた様子で戸棚を開け、調味料の場所を迷わず取り出す。
鍋の位置も、器の場所も、まるで前から知っていたみたいに手が伸びる。
「……なんで、そんなに分かるんだ」
思わず声に出た。
「え? だって、昨日お料理した時に教わったから」
は首を傾げて、無邪気に笑った。
その笑顔に、胸の奥がざらついた。
ほんの一瞬――五条先生と二人で台所に立っている姿を、勝手に想像してしまったのだ。
楽しそうに笑い合って、料理をしていたんじゃないかって。
くだらない妄想だと分かっているのに、妙に胸が痛かった。
だから。
「……一人で寝るな。俺の部屋で寝ろ」
精一杯の強がりで、そう言った。
それが自分なりの対抗心だと気づいてはいた。
五条先生に負けたくなくて、せめて自分の存在を刻みたかった。