第3章 香久夜の過去
夕方、五条の家に着いた二人は、
「なんか適当に作って〜チキン南蛮とか!」
とだけ言って消えた五条に取り残されキッチンに立っていた。
「…チキン南蛮、作ったことないよ、ど、どうしよう、、」
香久夜が困り眉で恵の方を見る。
いきなり向けられた瞳に恵は少し身構えるように目を丸くした。
「そもそも材料があるかわかんねぇし…」
そう言いながら恵はキッチンまで行き冷蔵庫を躊躇なく開けた。
「…鶏肉、卵、タルタルソース、、ってあの人、作らせる気満々だったな?」
そこにはチキン南蛮に対して完璧な食材が並んでいた。
「レシピ、これでできそう」
そう言って恵みは香久夜に自身のスマホを見せる。
うんうん、と言いながら香久夜はスマホに手を伸ばしてスクロールをする。一気に距離が近くなり、伏黒は少しだけ体に力が入った。
(…急に距離つめてくるの勘弁してくれ。)
恵はそんな内心を悟られないように、体の左側に意識が集まりながらも気づかないふりをした。
一通りレシピを見た後に、食材を切り始めた香久夜。
玉ねぎを切るその動きがやけに板についていて、恵は小さく瞬きをした。
「手際、いいな」
「山で暮らしてた時にね、食べることぐらいはちゃんとしたいから」
そう言ってにこりと笑いながら、香久夜は鶏肉に下味をつけ始める。
恵も自然に横に立ち、器用にタルタルソースを作り出した。
「卵、俺やっとく」
「ありがと。恵くんって、意外と料理できるんだね」
「……まぁ、俺も自炊するから。」
「得意料理、なぁに?」
「……カレー。」
「ふふ、カレーかぁ」
二人で並んで包丁を動かし、火を使い、調味料の味を確かめる。
会話はぽつぽつ。でも、不思議と空気は柔らかい。
「できた!」
やがてテーブルに並んだチキン南蛮は、香ばしい匂いと湯気を立てていた。
(美味しいかな…ちょっと不安だな)
「いただきます」
テーブルに二人。
二人で手を合わせ、一口。
「……うまい」
素直に呟いた恵に、香久夜は嬉しそうに目を細める。
「うん、、!美味しいね…!!」
はち切れるような笑みで頬に手を当てた香久夜に恵は一瞬箸を止めて目を丸くした。
「はは!そんな顔、初めて見た」
思わず笑が出た恵。
「え、!ど、変だった?」
「いや、変じゃない」