第3章 香久夜の過去
「うわっ、」
「おっと」
視界が大きく揺れ、香久夜の身体はしっかりと強い腕の中に受け止められていた。
抱きかかえられた格好になり、顔を上げると——目の前に五条の素顔があった。
サングラスが少しズレ、息が届くほどの至近距離で、美しい六眼が香久夜をじっと見つめている。
「き、きれい」
五条の腕の中にすっぽりと収まり、胸元から彼の体温と鼓動がダイレクトに伝わってきた。
「……無防備すぎ」
五条の声が、掠れるように低くなった。
「そんな格好で、いきなり胸に飛び込んでこられたら……いくら先生でも、ちょっと困っちゃうな」
五条の指先が、香久夜の肩から落ちかけたTシャツの生地をそっと引き上げ、露わになった首筋をなぞる。
「っぁ、ご、ごめんなさっ」
その指の温度に、香久夜の皮膚が小さく跳ねた。
慌てて離れようと五条の胸を押したが、腰をまわされている腕には力が入っていて、びくともしない。
逃げられないと困惑して身を硬くする香久夜を見て、五条の唇が意地悪そうに釣り上がった。
「ねえ、。あの山に、こんな男いた?」
「え……っ?」
五条は香久夜を腕の中に抱え込んだまま、開いた首筋にすっと顔を寄せた。
耳元に温かい吐息が吹きかけられ、香久夜はゾクッと背筋を震わせる。
「ひゃっ、」
次の瞬間、五条の唇が、香久夜の耳たぶを薄い皮膚越しにちょんと軽く掠めるように触れた。
「んっ……! ご、五条せんせ……っ!?」
「あは、耳弱いんだ。かわいい」
跳ね上がる香久夜の反応が面白かったのか、五条はくすくすと喉を鳴らして笑う。