第3章 香久夜の過去
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借りたシャワーを浴び終え、脱衣所の鏡の前に立った香久夜は、思わず自分の姿に戸惑った。
「……やっぱり、すごく大きい」
着替えとして渡されたのは、五条が部屋着にしている白いTシャツだった。
身長差が三十センチ以上ある男の服だ。
香久夜が着ると裾は太ももの半ばまで届き、まるでダボダボのワンピースだった。
しかも首元が大きく開き、華奢な鎖骨や肩先がすっぽりと露出してしまう。
濡れた髪をタオルで拭きながらリビングへ出ると、ソファでスマホを眺めていた五条が顔を上げた。
「おかえり、プリンセス、湯加減どうだった?
って、あはは! やっぱりデカいね。服に着られてるみたい」
「う……すみません、お借りしてしまって」
「いいって。ほら、そこ座りな。髪乾かしてあげる」
五条が床の絨毯をポンポンと叩く。
香久夜が恐る恐るその前に腰を下ろすと、頭の上でドライヤーの温風がゴーッと鳴り響いた。
五条の大きな手が、香久夜の濡れた髪に滑り込む。
指先が丁寧に髪をすき、時折、頭皮や耳の後ろに優しく触れた。
「……怖くなかった?」
ドライヤーの音に混じって、頭上から低い声が降ってくる。
いつものおちゃらけたトーンではない、大人としての静かな響き。
「……寮のよりもコンパクトで、安心しました」
「そっか。……もう大丈夫だよ。僕の部屋に、君を傷つける呪霊なんて一匹も入れさせないから」
五条の手が、香久夜の首筋を包み込むようにそっと置かれた。
手のひらから伝わってくるのは、絶対的な強者の熱と安心感。
同時に、香久夜の鼻腔を五条のつけている柑橘と清潔な石鹸の匂いがくすぐる。
(あたたかい……。でも、なんだか心臓がうるさい……)
山で一人でいた時には感じたことのない、胸の奥が締め付けられるような甘い動悸。
ドライヤーの風が止み、髪が完全に乾いた。
「はい、おしまい。……っと、?」
「あ、ありがとうございました——っ」
と立ち上がろうとした香久夜は、大きすぎるTシャツの裾を踏みかけ、前傾姿勢にバランスを崩した。
「うわっ、」